2021.06.06

幽霊がとつぜん現れてひとを脅かすシチュエーションを、幽霊側の視点でつづるホラー漫画!『死んでから本気出す』 橋本くらら【おすすめ漫画】

『死んでから本気出す』

本日紹介するのは、新潮社「くらげバンチ」で連載配信中のこちら。幽霊がとつぜん現れてひとを脅かすシチュエーションを幽霊側の視点でつづるホラー漫画『死んでから本気出す』だ。

主人公は学校で陰湿なイジメの被害者となっていた、高井瀬奈・15歳。自分をいびる同級生や見て見ぬふりの担任教師に嫌気がさしながらも、学校をサボるところまでふんぎりがつかず鬱々とした毎日を送る少女である。

そんな彼女が通学中、トラックに轢かれそうな猫を助けてあえなく事故死してしまう。ふと目覚めると、そばには霊界の案内人だという謎の女性・ファミリアが待ち構えていた。

「瀬奈さんは転生に興味ありますか?」

ファミリアいわく、死後の瀬奈には特別な才能が備わっているらしい。それは生きた人間の前に姿を見せて肝を冷やさせ、恐怖のエネルギーを抽出する幽霊としての資質。

その力を活かし、これから49日の間に人間を100人おどかして“恐怖のカタマリ”を100個集めることができれば報酬として異世界転生させてやる。案内人はそう告げた。生きていてもお先真っ暗と思いつめていた瀬奈には魅力的な誘いだ。

誰を脅かすか、どのように脅かすかは瀬奈の自由。人間社会のルールには縛られない。相手からこちらには接触できないのでやりたい放題だ。と、聞いたかぎりの条件はかなり甘い。よーし、せっかくだからこの機会に社会のクズどもへ鉄槌を下してやる!

かくして元いじめられっ子の少女はタイトル通り死んでから本気を出すことに。幽霊ならではの特殊スキルを使いこなし、街なかで見かけた悪いヤツ、嫌なヤツ、そして自分の受けたイジメに関わった連中をビビらせてまわるのだった……。

事実上の悪霊である立場とは裏腹に、ターゲットがパワハラ会社員やら転売ヤーやら、他人を理不尽な目にあわせてストレスをかける輩なのでそれらを脅かすのはむしろスカっとさせる人助けの図になるのが見どころのひとつ。瀬奈自身も“正義の死者”とダジャレで自称するが、実際ダークヒーローの活躍を応援するのに近い読み味がある。

そうした趣を盛り立てるのが、主人公の幽霊としてのスキル構成だ。

どろどろした黒いオーラを漂わせる・壁抜けをする・髪がぞわぞわ長く伸びて這いまわる・血まみれの姿になる……などベタな幽霊あるあるな演出をすべてレベルアップで身につく能力と定め、ある種の“技をキメる”光景として描くのが上手い。

本人も「なんだよこの能力wwww ホラー映画かよwww」と笑うシーンがあるが、視点をオバケ側に移したことであたかもホラー映画の舞台裏にまわりこんだような感覚を楽しめる。別の例えをするなら、肝試しの脅かし役になった者が暗闇の中に身を置いても「自分は脅かす側だから」と何かホッとした安心をもてる感覚とでも言おうか。

ただし、そこで一筋縄ではいかないのも本作のうり。絶対有利と思われた幽霊の属性も、カウンターになる霊能力をもった人間がいればただでは勝てないし、性格や感性が生前のままなので、いじめられていた記憶が行動に作用することもある。また、そもそも霊界案内人がもちかけたミッションはあまりに話がうますぎるのも気にかかるところ。

さらに最近の回では、いじめを黙認していたある人物がすでに自分から罪悪感と後悔に呑まれて震えており、そこへいじめ被害者が幽霊として顔を見せて何になるのか、お互いに何を思うべきかというデリケートな情緒に描写がおよんでいる。

ヒロイックで痛快なコメディから切ない人情まで奥行きのある風味で読ませる本作の全体的な着地点がどこに向かうのか。今後も注目したい。

なお、単行本は2021年5月8日に第7話まで収録された第1巻が発売済み。
作者・橋本くらら先生が週刊少年チャンピオンで連載中の、こちらは可愛らしい心霊コメディ『ギャルの背後に霊がいる』も同時期に1巻が発売されているので両作あわせてのチェックをおすすめだ。

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miyamo

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