『ウチは別れて暮らしてる』

離婚しても子供がいたら、夫婦は大人ないい関係でいられますか？

離婚は心を引き裂く悲劇……というのはまあ間違っていないのだが、大人の世界はそうシンプルな白黒ではなく、離婚したほうが双方幸せになってお互い心に余裕ができて、いい感じの距離感で友人的に仲良くなることもまれにあったりする。

そこに娘が絡んでくるのがこの作品。「離婚してから生まれた（父は元夫）」「夫側が説明を良く聞いていなかった」などのこともあり、特に親権で争う様子もなし。離婚夫婦と娘の、それぞれが幸福を探すほんわか物語、くらいにおさえて読める、少し変化球な切り口のファミリーストーリーだ。

心配性で生真面目な警察官の若林武文（わかばやし・たけふみ）。彼の元妻はサバサバしたタウン新聞の記者・江菅千歳（えすが・ちとせ）。

学生時代に武文の猛烈なアピールで結婚した二人だったが、どうにも折り合いがつかず、子供のないまま離婚。その数年後に再会した時、武文はちょっと未練があったものの、千歳とは仲良くお酒が飲めるくらいの距離感になっていた。

しかしそこに、６歳の千歳の娘メイが現れて仰天。千歳はもう再婚したのか！？と慄いていたところ、メイは武文の子供だったと明かされる。千歳は武文の姿をメイに見せていたらしく、メイはもじもじしながら言う。

「江菅メイです　はじめましてお父さん」

序盤は武文の頭の固さが一際目立つ。メイを極端に心配をしてしまい、あれはできているのかこれは大丈夫なのかとワタワタ。不器用すぎる親切はちょっと鬱陶しい。彼が父親になるための奮闘を重ね、ほんのちょっとずつ心を伝える努力を繰り返す様子は、やはり不器用だからこそ見ていて応援したくなる。

スパッと自身の意思を言える千歳の姿も気持ちがいい。メイに対して「好きだよ」「幸せだよ」と言葉をストレートにかけられる彼女。だからメイも千歳のことが大好きだし、言葉にしてはっきり言える。別れた武文に対しても、ここがいい、ここはダメ、とはっきり言ってくれるので裏表がない。たとえば武文がメイとでかけた時、はじめて手をつないで彼はほくほくする。それに対して千歳は「そりゃ危ないからつないでよ」と母親目線でバッサリ。この親としての意識ギャップが、武文を育てていく。

メイという娘がいて、すでに家族として暮らしている母・千歳、踏み込みすぎないように二人を思いやろうと頑張る父・武文、という適度な距離感があり、各々が成長しようと頑張っているからこそ、この作品には幸福感がある。男女の恋愛関係には戻らないかもしれないが、それぞれ自立した上で父母の関係を別物として作りあげていく様子は、読んでいてポジティブで楽しい。

父の武文の一人称視点で進むため彼の成長に目が行くものの、千歳は千歳で色々意識することは山ほどあるらしい。その元旦那に対しての思いを出さないのも、大人だ。なんせメイが一緒にいるのだから、母親としてのあり方を崩すことはできない。千歳と武文の、お互いには言わない、でもメイに関してのことはちゃんと言う、というさじ加減の調節が大人の会話の味。メイの幸せを一番に考えるふたりの行動原理が、大人の男女を育んでいるのが伝わってくる。

今は娘に対して思いを伝え愛することが最優先事項だが、今後離婚した元夫・元妻に対してどう言葉を伝えるか、はたまたブレーキを踏むかが焦点にもなっていきそう。きっと３人とも幸せになるだろう、という信頼をかなり持てそうなので、続きが期待できる。

©カワハラ恋/講談社