2018.03.28
【インタビュー】『恋は雨上がりのように』 渡辺歩×渡部紗弓「アニメは橘あきらの駆け抜けた季節であり、渡部紗弓の記録でもあった」
17歳の女子高生が、バイト先であるファミレスの45歳の店長に恋をする──物語の設定だけを聞けば、イロモノ作品に思われるかもしれない。
しかしそこには、少女の恋心だけではなく、諦めきれない夢や友情、若さに対する複雑な心境……など、誰しもが一度は経験するであろう人生の悩みや苦しみ、そして喜びが繊細に描かれている。
そんな青春を巧みに描いたマンガ『恋は雨上がりのように』(眉月じゅん/小学館)が、2018年1月からアニメ化され放送が進められてきた。
第1話「雨音」。橘あきらが、店長が、バイト先の仲間が、学校の友達が、しっとりと雨の香りがする画面の中で動いているのを見て感動したのがつい最近のようだ。
今回は、最終回のアフレコ直前というタイミングで、アニメ監督である渡辺歩さんと、橘あきら役を演じた声優・渡部紗弓さんに、キャラクターたちに対する想いや制作中のエピソード、最終回の見どころなどを伺った。
(取材・構成:園田菜々/編集:コミスペ!編集部)
「だんだんと店長を熱く描けるようになったんですよね」
───今日が最終回のアフレコということですが、今の心境はいかがでしょうか。
渡部紗弓(以下、渡部):正直あまり実感がないですね……。
渡辺歩(以下、渡辺監督):ほんと、あっという間ですから。なんとなく終わりの予感というのはするものだけど、思い返したら7話目くらいからですかね、あと何話……と、心のどこかでカウントダウンはしていたと思います。
───渡辺監督は、アニメ化の話が出る以前から原作を読んでいたと伺いました。
渡辺監督:そうなんですよね。表紙のイラストのインパクトがあるから、書店で平積みされているのに一瞬で目を引かれましたね。
───実際原作を読んでいた当時から、いまアニメの最終話を迎えるまで、監督の中で作品やキャラクターに対する印象に変化はありましたか?
渡辺監督:最初はやっぱりね、年齢差の設定などからキワモノかな、なんてイメージがどうしてもあって。でも、店長の大学仲間のちひろが現れたあたりからですかね。この作品の中で、あくまで僕個人の話ではあるけど、本来追うべきテーマというか、惹かれる部分が浮き彫りになってきた。17歳の世界を描くというのはもちろん根底にあるんですが、一方で店長に対するシンパシーのようなものを感じるようになって。
───なるほど。
渡辺監督:それ以降は、店長側を熱く描けるようになりましたね。見方が変わったというよりは、ようやくそこに気づいた、という感じですね。マンガにはもちろんあったのでしょうけど、アニメを制作していく中で我々がようやくそこに行き着いた、という感覚があります。
「あきらって、クールに見えて、実は普通の女の子」
───渡部さんは実際に演じてみることで、あきらの捉え方に変化はありましたか。
渡部:あきらって、クールに見えるんですけど、実は感情を大きく見せる子なんだな、と思うようになりました。原作を読んでいたときは、不器用で無愛想な女の子というイメージが強かったんですけど、回が進んでいくごとに、怒鳴ったり喜んだり泣いたり、そういう部分を演じてみてようやく実感しました。
───確かに表情がころころと変わるのが印象的ですね。
渡部:特に周囲からの反響が大きかったのが、第5話。ハムスターをきっかけにバイト先でちやほやされる店長に対してやきもちをやいてしまうあきらに、「あそこが一番可愛い!」って声をたくさんいただいて。ぱっと見クールな子が感情を見せる瞬間に、私も含めてみんな惹かれるんだな、と。アニメのクールなキャラクターって、ずっとクールなイメージがあるんですけど、橘あきらはあくまで普通の女の子なんだな、と思うようになりました。
ターニングポイントとなった第7話「迅雨(じんう)」
───振り返ってみて、特にお気に入りのシーンや印象的だった回などはありますか。
渡辺監督:これひとつと絞るのは難しいんだけど、やっぱりみんなで声を合わせた第1話かな。あきらと店長のかけあいとか、「そうそう、これが見たかった」というような感慨がありますよね。バンドが初めて演奏するような瞬間に近いのかな。それがね、毎回収録のたびにあるような気がします。回を追うごとに、色々なシチュエーションであきらさんと近藤さんが描かれて、また違った魅力を発見することができたりね。……うん、絞れないな(笑)。
渡部:お気に入りというか、特に自分にとってのターニングポイントとなったと思っているのが第7話です。
渡辺監督:あー、第7話ね! 色々ね、大変だったよね。
渡部:あの回は、事前に台本を読んだときから、店長に拒絶されるということはわかっていて。そういった意味でとても気分が重たかったんです。緊張もするし、わかっていても辛い。ただ、あれがなかったら、それ以降のあきらは上手に演じられなかったんじゃないのかな、とも思っていて。
渡辺監督:そうでしょうね。やっぱり17歳の女の子にとっては大事件ですから。大きな山ですし、当の本人は敏感に感じ取りますよね。覚悟をもってのぞんでいるだろうし、精一杯やった分、余韻もすごかったんじゃないかな。その日はぽわーんとした感じで帰っていって、声をかけられなかったです。
渡部:(笑)。たしかにその日は珍しくあまり話さなかったです。私自身にもあきらの脆さが出ましたよね。
渡辺監督:近藤さん自身も精一杯全身全霊で受け止めて、あきらの脆さに驚いたと思うし、演出上もディレクションで注力した部分ではありますね。ここを描ききらないと後半にはいけないな、と。色々な意味で胸が熱くなる回ですね。
渡部:一瞬、燃え尽きたというか、プシューって空気が抜けたようになりました(笑)。
渡辺監督:うまく入りこんでくれたということです。それはすごいこと。それだけでも良い人にお願いできたな、って思いますよ。
「初恋」と聞いて思い出す一冊
───ちなみに『恋は雨上がりのように』では、近藤さんが作家を目指していたエピソードなどもあり、本もひとつのモチーフになっているように思います。お二人が「初恋」と聞いたときに思い出す本はありますか。
渡部:恋って言っていいのかわからないんですけど、学生の頃の淡い青春を思い出す一冊として『世界の中心で愛を叫ぶ』があります。
───当時、流行ってましたよね。
渡部:そうなんです、原作はもちろんドラマや映画でもすごく流行っていて、そんな時期に仲良くなったクラスメイトがいたんですよ。
渡辺監督:へえ〜! それで、それで?(笑)
渡部:(笑)。ちょっと不思議な関係で、毎月一回必ずどちらかからメールをするんです。その日一日ずっとメールをしたら、また来月にどちらかが送る、っていう。そんな変な決まりが約束もしていないのに3年続いて。そのメールの中で、この作品の話をしていたような記憶があります。
───甘酸っぱい思い出ですね。
渡部:その方が授業中に、携帯の着メロが鳴って先生に没収されたことがあって。それが確かその作品のドラマか映画の主題歌だったような・・・(笑)。細かくは覚えていないですが、当時の気持ちを思い出すといった意味でも心に残っている作品ですね。
渡辺監督:当時を思い出せる作品っていうのはいいですね。しおりみたいなものですかね。
───渡辺監督はどんな作品を思い浮かべますか?
渡辺監督:僕の場合は、何世代も前になっちゃうからなあ……。ひとつ挙げるなら、渡辺多恵子先生の『ファミリー!』かな。中学の頃、気になる女の子がいて、その子に勧めてもらった。それが初めて少女マンガを読んだきっかけでもありますからね。
───なるほど!
渡辺監督:少女マンガなんて読んだことなかったから、最初は読みづらくて。でも好きな子と話すきっかけが欲しいし、良いって勧められたら気になるでしょ。音楽も映画も、きっかけがあって初めてそこで開かれるというのは良い思い出になりますよね。
───ちなみにその子とはうまくいったんですか。
渡辺監督:いやいや、淡いもんですよ。ただ、だんだんマンガの方が面白くなっちゃって。こういう仕事につくひとつのきっかけにもなっているかもしれませんね。
「アニメという作品のひとつの終わりであり、渡部紗弓という一人の人間の記録でもあるんです」
───今回のアニメ化に当たって、「渡部紗弓さん演じる橘あきら」は監督の目にどう映りましたか。
渡辺監督:僕の中ではね、渡部さんに頼むと決まった時点で、彼女は本物の立場にあるあきらなわけです。だから本物のあきらをどういう風にアニメの中で浮き彫りにしていくのか、さらにいえば、描ききって記録するのか、というところですよね。
アニメだけに特化して言うのであれば、間違いなくあきらは12本走り抜けましたからね。同時に、それを演じた渡部紗弓も12本駆け抜けたわけで、これは僕にとってひとつ壮大なドキュメンタリーのようにもなっているんです。渡部紗弓という人間のひとつの季節が記録されているんです。
渡部:本当に、あきらを演じたことで自分の中で色々と変わったな、と思います。
渡辺監督:なんだか、堂々としてるもんね(笑)
渡部:いやいやいや(笑)。でも本当に、声優としては世界が変わった作品だと思っているので、感謝しかないです。
───最終回に向けて、観ている方に伝えたいことはありますか。
渡部:アニメはひとつの終わりを迎えますが、恋だけではなくて夢だったり友情だったり大切な要素が詰まった12話になっています。本当に原作の魅力をぎゅっと丸ごと詰め込んだ、宝箱のような作品だと思っていて。原作とはまた違う形にはなりますが、ひとつの作品の終わりとして見届けてほしいな、と。あとは、正直、すごく寂しいですね。・・・涙が出てきました(泣)。
渡辺監督:収録のあとにしておけばよかったね(笑)。今回はアニメという媒体で、原作マンガを再現しましたけど、さらにいえば原作マンガと最後は違うのかもしれませんが、僕としては原作の方にまた橋渡しができる、そんなに遜色のない描き方ができればいいなと思っています。
まあ、皆様には最後まで見届けていただければ、と。精一杯やったところを、一人の証人になっていただきたい。そして、今後も渡部紗弓をよろしく、というところで。
───本日はありがとうございました。
TVアニメ情報
TVアニメ『恋は雨上がりのように』
フジテレビ「ノイタミナ」にて毎週木曜24:55から放送中。ほか各局でも放送。
Amazonプライム・ビデオにて日本・海外独占配信。
キャスト
・橘あきら:渡部紗弓
・近藤正己:平田広明
・喜屋武はるか:宮島えみ
・西田ユイ:福原遥
・吉澤タカシ:池田純矢
・加瀬亮介:前野智昭
スタッフ
・原作:眉月じゅん
・監督:渡辺歩
・シリーズ構成:赤尾でこ
・キャラクターデザイン/総作画監督:柴田 由香
・音楽:吉俣良
・アニメーション制作:WIT STUDIO
BD/DVD情報
「恋は雨上がりのように」Blu-ray&DVD BOX<上>
・発売日:2018年4月18日(水)
・収録話数:1~6話(本編ディスク2枚+特典CDディスク1枚)
・価格:
Blu-ray BOX(18,000円+税/ANZX-14151~14153)
DVD BOX(15,000円+税/ANZB-14151~14153)
・BD/DVD情報詳細:http://www.koiame-anime.com/bddvd.html
OPテーマ「ノスタルジックレインフォール」情報
CHiCO with HoneyWorks「ノスタルジックレインフォール」
SMCL-528(アニメ盤)/SMCL-527(CHiCO with HoneyWorks盤)
発売中/¥1,241+税
1. ノスタルジックレインフォール
2. ラズベリー*モンスター
3. ノスタルジックレインフォール(Instrumental)
4. ラズベリー*モンスター(Instrumental)
OPテーマを担当する「CHiCO with HoneyWorks」のCHiCOさんよりコメント!
OPテーマ曲「ノスタルジックレインフォール」を担当、また2ndアルバム「私を染める i の歌」も2018年2月28日に発売した、CHiCO with HoneyWorksより、CHiCOさんにも『恋は雨上がりのように』のお気に入りのシーンや、ご自身の青春を思い出す作品などについてコメントを頂きました。
「CHiCO with HoneyWorks」プロフィール:ソニーミュージック主催のボカロ・アニソン特化型全国区オーディション「ウタカツ!」で第一回グランプリを獲得したボーカリスト「CHiCO」と、ネットでの動画総再生回数が4億回を超え、シリーズ・プロジェクト『告白実行委員会~恋愛シリーズ~』も2作連続で劇場アニメ化されたクリエイターチーム、「HoneyWorks」のコラボユニット。デビューシングル「世界は恋に落ちている」をはじめ、YouTube/ニコニコ動画等にアップされている今までリリースした8枚のシングル・アルバムのミュージックビデオの総再生回数は2億回再生を突破。2018年3月16日には初の日本武道館ワンマンライブ「i contact」を開催、進化しながらデビュー4年目を走る大注目アーティスト。
───アニメ『恋は雨上がりのように」』や原作で、お気に入りの胸キュンシーンを、理由とともに教えてください。
CHiCO with HoneyWorks(以下、CHiCO):原作でもそうだったんですが、店長とデートするお話が好きです! 連絡一つ一つにドキドキしたり、デート先で買った物とかいつもより特別に感じたり…。デートの日程が決まってピョンピョン跳ねて喜ぶあきらに萌えました!
───どのキャラに一番感情移入しますか? その理由とともに教えてください。
CHiCO:やっぱりあきらかな…と。一見、クールに見えてしっかりと感情を表に出す子で、表情が変わると自分も一緒になって同じ顔をしてる時がよくあります(笑)
共感もありますけど、どちらかと言えばあきらと同じ目線でストーリーを追っている気がします。なので、バイト先の加瀬さんとデートに行くシーンではずっと加瀬さん嫌いになってました(笑)
───作品内でも文学作品はひとつのキーワードになっているので、CHiCOさんが青春をしていた「あの頃」を思い出す一冊とその理由について教えてください。
CHiCO:本嫌いだった私が本を好きになれた一冊は米澤穂信先生の『小市民シリーズ』です。『春期限定イチゴタルト事件』や『夏期限定トロピカルパフェ事件』といった季節ごとにシリーズがあって、4冊刊行されています。
高校生の男女が身の回りの事件を解決していく推理小説なんですが、読みながら頭の中で物語を構成するのに一生懸命だったのを覚えています。
最初はタイトルで惹かれてなんとなく読み始めたんですが、主人公の二人のキャラクター性や、読みながら頭の中でキャラクターの声や情景をイメージするのが楽しくて、本って面白いんだなぁと気づけた一冊です!
───『恋は雨上がりのように』関連の制作中で、印象的だった(胸が熱くなった瞬間)出来事を教えてください。
CHiCO:なんといってもOPテーマをやらせていただくというお話を聞いたときが一番胸が熱くなりました! もともと原作の大ファンで、大好きで読んでいたので本当に嬉しかったです。
単行本を読み返してみたり、声優さんは誰なんだろ~楽しみだなぁ……とファン目線でワクワクしていました(笑)
楽曲制作中も、どんな曲ができるかな、どんな風に歌えば『恋は雨上がりのように』の世界観に合うかな、って考えるのが楽しかったのを覚えています。
原作マンガ
© 眉月じゅん・小学館/アニメ「恋雨」製作委員会