2018.04.04

【2018年3月】マンガ家が選ぶ 今月の注目! 新連載マンガ

毎月100本以上の新連載が始動しているマンガ戦国時代とも言うべき昨今。その中でも、マンガ家たちが注目した作品をピックアップしていく本連載。

今回は、2018年2月20日から2018年3月18日の間に始まった新連載マンガから「マンガ新連載研究会」(マンガ家による勉強会サロン)が着目した作品を紹介いたします。

『ボクらは魔法少年』

ヤンチャで元気なガキ大将、11歳の小田桐カイトくんが「魔法少年ときめき(ハートマーク)ピンク」になる話です。

魔法少年? そう、魔法少年! まるで魔法少女のようなフリフリドレスのミニスカ姿に変身したヤンチャで元気なガキ大将(11)が己の姿に赤面・悶絶し、公衆の面前で恥じらい、カツアゲ不良どもから言葉責めを受けて辱められる話です。

やはり創作者たるもの、作品を作る時に己の内なる欲望をどれだけ顕にできるか、不特定多数の読者とどれだけリビドーを共有できるかが勝負、といった面があります。その点、本作は…………満点!

「ショタっ子に女装をさせたいんだ!」
「公衆の面前でショタっ子を辱めたいんだ!」

そんな福島先生の心の叫びが伝わってくるではありませんか。

百人読んで百人が好きになれる作品ではないかもしれません。しかし、読んだ百人全員の心に「福島鉄平先生は女装ショタっ子を人前で辱めるのが大好きなんだ」ということがきっと伝わったはずです。紙面全体からリビドーの溢れた力強い作品です。

試し読みはコチラ!

『悪魔英語 喋れる人だけが知っている禁断の法則』

2月に紹介した『コーヒーとボク』(相原民人/双葉社)もですが、本作もまた広告マンガとマンガ作品の間の子に位置する作品と思われます。そして本作は……面白い。もはや『悪魔英語』というタイトルの時点でなんか面白いんですが。

本作は、神への叛逆行為の一環として人々に英語を教えようとする悪魔と、学習意欲はあるのに英語がしゃべれない青年の物語。どうも本作の背後には『ずるいえいご』(青木ゆか,ほしのゆみ/日本経済新聞出版社)という英語学習本があるようです。ということで、本作は『ずるいえいご』のプロモーションマンガという側面もあるのかな? と思ったりするのですが、ここで興味深いのは第一話ラスト。悪魔が次のセリフで第一話を締めています。

「お前はもう英語を喋れている」
「お前は4つ捨てるだけでいい。ひとつめは、2割を残して8割を捨てることだ」

次話を読みたくさせるように読者の興味を引いて終えることを専門用語で「引き」と言いますが、この、まるで情報商材の宣伝メールに出てきそうな文句! これが見事に引きとして機能しているんです。すごい続きが気になる。

と言うことは、もしかして世に出回っている情報商材メールでも、思わずクリックしたくなる秀逸な文章のやつは全部マンガの引きとしても機能するのでは? もっと言うなれば、良質な情報商材は全てコミカライズが可能なのでは……??

そんな可能性を垣間見せてくれた作品でした。あと、悪魔が英語で喋ってるだけでなんか面白いです。召喚された悪魔が日本語で喋る方がよく考えたら不自然なのに、悪魔が英語で、しかも主人公が聞き取れるように、ゆっくり喋るだけで、すごく面白い……。

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『ボーイズラブ藪の中概論』

個人的に今回イチオシの作品がこちら。内容はタイトルの通りで、ボーイズラブ(BL)について二人の登場人物(女性)が、寄せられたアンケートを元に延々と語り合うだけの作品です。初回のテーマはずばり「どうしてこんなにBLが好きなのか」。

これが知的好奇心をビンビン刺激してくるんです……。筆者はBLに興味はなく、基本読むことはないのですが、とはいえ、「BLを好む人たちがたくさんいる」という事実は厳然として存在しています。個人的な嗜好とは相容れなくても、その事実自体には興味があるし、その謎の答えは知りたいわけです。

加えて、作中に出てくる「BLは中毒性が高い」「依存度が高い」という言葉。「BLは依存」……すごくグッと来ました。だって、作家たるもの、読者を依存させたいじゃないですか。BLの依存発生原理を解き明かして、応用して、自分の読者を依存状態にさせたいじゃないですか。これはすっごく興味深いトピックです。

そういった知的好奇心は別にしても、このマンガは普通に読んでるだけでも何故か楽しい。興味関心の薄い分野のはずなのに何故なんだろう? と考えてみたところ、作中で紹介されているBL読者たちのリビドーが心に響いているのだと分かりました。

つまり、「女装ショタっ子を公衆の面前で辱めるのが好き」という福島鉄平先生のリビドーが伝わってきた時と同じで、様々なBL読者たちの、根っこの部分のストレートな感情がビシビシ伝わってくる。そこに爽快感が生まれていたのです。

マンガは基本的に「キャラクターの感情を描け」と言われます。どうも人間は「他者の感情」に興味があるようなのです。しかし、それは作中のキャラクターだけに限りません。作者自身の感情や、他の読者の感情に関しても、われわれは同じ興味関心を共有するのです。

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『ただし俺はヒロインとして』

以前に、当サイトの記事「性別が変わると興奮する!? 知られざるTSマンガの世界」にてインタビューさせて頂いたTSマンガ家、森下真央先生の新連載です。

ギャルゲーの「主人公」になりたいと願った青年・中野唯弘が、ギャルゲーの世界に転生するも、主人公ではなく「メインヒロイン」になってしまった、というTS作品です。

……が、そこまでのあらすじはインタビュー時にも伺っていたものの、実際に一話を読んでみると、どうもそれだけの話ではなく、想像以上に業が深い。

女体となってからの初めての着替えにドキドキするなど、TSのお約束的展開ももちろんあるのですが、本作はその段階に留まりません。中野は「ギャルゲーのヒロインになった」ことにより、ギャルゲーの「お約束的展開」にも身も心もを縛られてしまうのです。

例えば、ヒロイン(中野)の着替え中に「ギャルゲーの主人公・篠崎悠人♂」が突然部屋の扉を開けるというお約束的なイベントが発生します。当然、ヒロインの中の人は(中野♂)ですから、男に着替えを覗かれて怒りが湧き上がります。

ですが、これは「イベント」なのです。唐突に辺りにBGMが流れ出すと、そこで、中野はギャルゲー的展開に突然心身を支配され、まるでヒロインのように「恥じらってしまう」のです。

自意識を凌駕して、感情がギャルゲーのお約束に従ってしまう恐怖! しかもギャルゲーとは言ってるものの、このゲームは実際はおそらくエロゲー……。となると、最後に中野(ヒロイン)を待ち構えているのは、主人公(♂)との濡れ場! これは辛い! 地獄!

そう、本作は女体化した主人公が、己が身に待ち受ける破滅から逃れるための、サバイバルマンガでもあるのです……。

われわれ作家は、物語を盛り上げて読者の感情移入を誘うために、主人公に様々なピンチを作り出します。「お前がいま動かないと世界が大変なことになるんだぞ」「愛する人が失われるぞ」などです……。しかし、

「おまえ、なんとかしないと♂と和姦することになるぞ」

このピンチ感は強烈! すごく感情移入できてしまう! 絶対に嫌だ! だから、読者であるわれわれも自然と主人公を応援してしまうのです。がんばれ中野! 未来を変えろ、中野!!

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『ダンゲロス1969』

ええっと最後に……オススメのマンガではないんですが、いや、オススメではあるんですけど、なんていうか、あの、先月始まった自分の作品を挙げておきますね。

1960年代末を舞台に超能力を持つ学生たちと刑事が死闘を繰り広げる、超能力学園紛争マンガです。第一話では下半身をボディペイントで塗った股間まるだしの刑事が射精しながら戦います。五回射精します。



以上、100作品以上の中からピックアップした4作+オマケを紹介いたしました。他にも特筆すべき作品は幾つもありましたので、新連載作品に興味を持たれた方は、こちらから色々な作品を読んでみてくださいね。

この記事を書いた人

架神 恭介(@マンガ新連載研究会)

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