2018.05.03
【日替わりレビュー:木曜日】『アダムとイブの楽園追放されたけど…』宮崎夏次系
『アダムとイブの楽園追放されたけど…』
2年半ぶりに出た宮崎夏次系の新刊はやさしかった。
静かな気配と、佇む狂気。
宮崎夏次系先生の作品は、つねにその二つが引っ張り合いながら、ヒリヒリとした雰囲気を醸し出している、ように思える。
次のページではどんな展開が起きているのかわからない、セリフひとつとっても予測不明。出てくる登場人物たちはみな異常。現実世界にいたらきっと変人の烙印を押されて追放されるか病院送りになるか、そのどちらかだろう。
新刊が、約2年半ぶりに発売された。
タイトルの通り、楽園を追放されたアダムとイブが子どもを育てる日々を描いたものだ。既刊のもつ危うさは少しだけなりをひそめ、ユーモラスな表現が目立つ今作品。
サングラスをかけたクールな金髪女性イブと、ちょっと冴えないが穏やかで子煩悩のアダム。追放したわりにしょっちゅう赤ちゃんの顔を見にくる神(二人からは「父さん」のノリで「神さん」と呼ばれている)。
この作品は、入門編のようなやさしさがある。今までの作品に比べてだいぶ読みやすいものではないか。その一方で、雰囲気はポップになったが、読後の、孤独や寂しさが癒える感覚、は健在だ。帯にある「悩みなんて、どーでもよくなる」という文字通り、あらゆることが馬鹿らしくなってくる。
また、巻末にある読み切り「オカリちゃんのお兄ちゃん」がしっとりとした寂しさを感じることができてまたいい。ストレートに泣いてしまった。もし本編のシュールな部分についていけなかったひとがいても、ぜひ最後まで読んでほしい。過度なお涙ちょうだいはない、お兄ちゃんの抱く孤独や寂しさを、そのまんまの大きさで描く作者の力量に感動してしまう。
作者の新境地のような雰囲気も感じる今作品は、王道のような開けた印象があり読みやすい。ついてこれないなら置いてくよ、と我が道を走り続けていた作者が、気まぐれのようにさしのべてくれた手。これを今つかまないでいつつかむのだろう。
©宮崎夏次系/講談社