2018.07.04
【日替わりレビュー:水曜日】『人形のアサ』木材石材
『人形のアサ』
ラブドールが引きこもりの僕を無理やり学校に連れて行こうとする件
「キルタイムコミュニケーション」といえば、ファンタジー系のエロマンガ作品を多く輩出している出版社。最近電子で刊行され始めている「ヤングアンリアル JINGAI」は、タイトルの通り人外少女マンガ特化の一般向け雑誌だ。
掲載作品の1つである『人形のアサ』は、コミティアで人気を博していた作品のリニューアル版。出てくる人外少女は、ラブドールだ。
家に引きこもり、学校に行かず、官能小説を書く青年。夜中に外出するのが好きな彼が見つけたのは、全裸の少女だった。
彼女はラブドール。未発表人形で、研究所が嫌で逃げ出してきたらしい。首を拾ってあげた後、彼はすぐに帰ろうとするが、少女は袖を引っ張って引き止める。
「私はあなたを喜ばせたいのです」
「お礼ヌキで…です」
「あなたはとても優しくツッコミ上手で そして とても孤独な人です」
ラブドールにできることといえば、性処理。
青年は奥手なので彼女が性行為に及ぼうとしても退け続ける。普段から着衣を嫌がる彼女、全裸に外着というフェティッシュな格好でうろつきまわる。ロリータボディのエロハプニングはニヤニヤもの……でもない。青年の孤独は溢れすぎていて、エロシチュエーションに幸せを見いだせないからだ。
疑似セックスだけがラブドールの存在価値ではない。例えばラブドールの持ち主は、おそらくみんな名前をつけるだろう。自分にとっての唯一の、大切な存在として愛情を注ぐから。
少女の元の名前はA1332-E2390A。愛着もなく作られた製造番号のようなものだ。彼女はこれを嫌っている。青年は命名に乗り気ではなかったが、悩みに悩んで、名前をつける。朝が好きだから、「アサ」。
性行為しか知らなかったアサは、朝日を好み、ラーメンを食べ、公園を走ることを楽しむ。感情的に成長すればするほど、彼女の思いは一点に集中していく。
「私はあなた様を笑顔にしたいのです」
心折れて夜を彷徨う青年。彼を見つけたアサは、憂鬱になっている彼をただ、抱きしめる。3Pほど、ただ抱きしめている。
ラブドールとは、直訳すれば愛の人形だ。そこに性処理が絡むのは事実だけれども、それ以上の癒やし力を、彼女たちは持っている。
今回のマンガの場合、青年に対してアサは一切恋愛感情を抱いていないのもポイントになりそうだ。彼が幸せになったら、アサは一体どうするのだろう。
物語全体は強引なアサのドタバタコメディ。その奥底に、コミュニケーション不全の苦しみと、人間を癒やすために生まれた存在の儚さが光る作品だ。
©木材石材/キルタイムコミュニケーション