2018.07.14

【2018年6月】マンガ家が選ぶ 今月の注目!新連載マンガ

毎月100本以上の新連載が始動しているマンガ戦国時代とも言うべき昨今。その中でも、マンガ家たちが注目した作品をピックアップしていく本連載。

今回は、2018年5月21日~2018年6月17日の間に始まった新連載マンガから「マンガ新連載研究会」(マンガ家による勉強会サロン)が着目した作品を紹介いたします。

『内藤死屍累々滅殺デスロード』

 超能力に目覚めた高校生たちのバトルストーリー!
 
 ……なのですが、それはそれとして、内藤というオッサンのことが同時並行で語られていく意欲的な構成の作品です。

内藤さんが何なのか全然分からない。タイトルにまで名前が入っているのに、なんでこのオッサンがフォーカスされているのかさっぱり分からない。主人公の少年たちとも特に関係ない。主人公たちからは離れた遠い所で、内藤さんが突然えらいことになるだけ!

しかし、「何者かになりたかった」「内藤徹夫とは──誰だ?」といった内藤さんの独白から考えるに、おそらく、この内藤さんのよく分からなさ、ポッと出感こそが本作の肝なのでしょう。何が肝なのかはまだ分からないけれど!

いちおう1話の後半から、主人公たちと内藤さんが交わっていくことは示されて、2話に至ってさらに明確化されるんですが、主人公たちと関係のないオッサンが話の筋をぶった切って何度もインサートされてくる、という読書感覚はなかなか面白いのではないでしょうか。

試し読みはコチラ!

『座敷娘と料理人』

いわくありげな高額バイトを引き受け、田舎の日本家屋で掃除と供え物をすることになった主人公の青年。しかし、そこには可愛い幼女の座敷童が! 座敷童の美幼女と共にカレーを食べたり、買い物をしたりする日々が始まる……!

という内容なのですが、本作をピックアップしたのには単純に面白かったという他にも経緯があってですね……。

『極貧JKと人外紳士』
『ぼんくら陰陽師の鬼嫁』

先月始まったこれらの作品ですが、どちらも「女性主人公が男性の家で家政婦的な立場で働く」というものです。これらの作品を見て、筆者は、

「なるほど、女性には『イケメンで優しい金持ちの男の家で使用人になりたい』という欲求があるのだな」

と考えたわけです(「結婚したい」ではなく「使用人になりたい」なのがポイント)。が、しかし! 本作『座敷娘と料理人』を読んで気付かされたのです! だって本作は……

『かわいい幼女の家に住み込んで家事とかしたい』

という願望に基づくモノなのです。

どうもこの「使用人になりたい欲求」、男女の性別に関係なく、ある程度普遍性のある欲求のような気がするのです。思い返せば『ハヤテのごとく!』なんかも、まさにそういうマンガだったかもしれない……。

で、これを鑑みて、マンガを作る側の立場から考えると、あまり言語化されてない欲求を顕在化させると、それだけで作品が一つ作れるんじゃあないか、と思ったわけです。

だってほら、「使用人になりたい」とか普段あんまり考えないじゃないですか。でもこうして、かわいい幼女とか、田舎で二人暮らしとか、そういう魅惑的な条件が重なってくると、いつの間にやら「俺も使用人になりたぁ~~い……」と思ったりして、自分の中の「使用人になりたい欲求」に気付かされるわけです。

世俗から離れて、お金の心配もなく、田舎で幼女と二人で、ごはんを作ったり、掃除したり……。いやあ、いいですよね。グッと来る。これは概ね天国なのでは?

そんなものを実は求めていた自分に気付かせてくれるのです。

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『おっさん魔王とニート勇者』

こんなタイトルだけど現代劇! 

100年前に勇者に倒されて、今はアパートで一人暮らしをしている魔王と、闇落ちしたくて魔王を尋ねてきた勇者の孫の日常コメディです。ちなみに勇者が闇落ちしたい理由は「光の勇者だから金髪になってしまい、就活に不利」とのこと。

この作品、面白いんですけど、何が面白いのかイマイチ言語化が難しく……。ただ、分析してみると『聖☆おにいさん』に似ている構造だと感じました。

『聖☆おにいさん』はブッダとイエスという、有名なキャラクターを同じアパートに住まわせた作品ですが、本作も魔王と勇者という(キャラクターではないけれど)一般的に流布した概念の組み合わせで同居生活を描いています。

すなわち、両作とも「既にある程度、読者に馴染みのあるキャラで」「キャラの動き方が想像できる」というアドバンテージを持った状態から始まっている日常コメディなのです。ブッダもイエスも魔王も勇者ももう大体知ってる! なので非常に取っつきやすい!

で、後はその、ブッダ、イエス、魔王、勇者というキャラを「適度に」崩していくわけですね。過激にではなく適度に崩しているのがポイントで、ブッダ、イエス、勇者らのポジティブな面はある程度保持させつつ、その上で面白い動きをさせる。それによりキャラの意外性と、ポジティブさによる取っつきやすさを両立させる作りなのではないでしょうか。

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『不可解なぼくのすべてを』

主人公がクラスメイトの女装男子を、家業の「男の娘メイド喫茶」に勧誘するお話です。しかし、本作ではその女装男子が男の娘として生きていく様を描くわけではなく、彼は「自分の性別が男なのか女なのか分からない」と告白するのです。だから、彼には「男の娘」(つまり「男」である)として扱われることが耐えられないのです。

私も初めて知ったのですが、巷で言われているLGBTという言葉には実はバリエーションがあって、

LGBTQ
LGBTI
LGBTA

などがあるらしいんですね。で、このQというのがQuestioning。自分の性別に迷っていたり、他者から性別を決められることに抵抗感を覚える人たちのことです。

ですので、本作でメインで扱われているのは、おそらくこのQ。LGBTまではよく知られていると思いますが、あまり知られていないQの概念にまで踏み込むと、読者に新しい感覚を与えることができるわけです。

みんなが大体知るようになってきた流行りのテーマでも、あと一歩踏み込むことで、新鮮なテーマとして届けられる。そんな好例だと思いました。

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『勇者のクズ』

今月の最注目作品。勇者と呼ばれている合法の殺し屋と、魔王と呼ばれるマフィアとの異能バトルですが、本作は実はインディーズ連載作品……つまり個人で連載開始した作品なのです。

この企画は紆余曲折があり、もともとは「KADOKAWA富士見ドラゴンブック」から発売されたライトノベル『勇者のクズ』が原作です。本作はナカシマ723先生により「NewType」紙上で連載されるはずでしたが、なんやかんやで企画が立ち消えとなりました。

……と、そこまでなら業界によくある「連載するはずだったのに、なんか消えた」話なのですが、ナカシマ723先生はKADOKAWAに話を付けて、執念により自力で連載を開始。さらには英語版を同時掲載(画面下真ん中のボタンで言語が切り替わります)という野心的活動に打って出たわけです。

本作が注目すべき点はいくつもあって、まず、出版社から小説が出ている作品を、個人が企業と話を付けることで、曲がりなりにもコミカライズが可能になったという点。「曲がりなりにも」というのは、全面的な許諾は得られなかったからですが、ともかく全く不可能ではないようです。

次に、英語版の同時掲載です。マンガ家の中には「俺の作品、英語化されて世界中で読まれれば大ヒットするのでは……」と考えている人が少なからずいるはず。それを実際にやってみたこの企画です。果たしてどうなるのか?

そして最後に。この作品がキッチリと経済的な成功を収めたなら……。世の中にごまんとある「連載されるはずだったのに、出版社の都合でなくなった」「途中で打ち切りになった」作品や作家にとっては福音となるはずです。だって、自力で連載して、自力で成功する可能性があるということですから……。

もちろん、そうは言っても、実際に成功できるのか、日本のインディーズ作品が英語圏にきちんと伝わるのかは分かりません。しかし、それでも本作が偉大な実験であることは確かだし、作家としてはこのチャレンジの行く末に期待してしまうのです。

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以上、100作品以上の中からピックアップした5作を紹介いたしました。他にも特筆すべき作品は幾つもありましたので、新連載作品に興味を持たれた方は、こちらから色々な作品を読んでみてくださいね。

この記事を書いた人

架神 恭介(@マンガ新連載研究会)

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