2018.08.25
【日替わりレビュー:土曜日】『ひみつのアッコちゃんμ』上北ふたご,井沢ひろし,赤塚不二夫,フジオ・プロダクション
『ひみつのアッコちゃんμ』
テクマクマヤコン、テクマクマヤコン。
鏡の国からさずかった魔法のコンパクトに呪文をとなえれば、なんでも望む姿に変身できる。
明るくやさしい小学生の女の子アッコちゃんは、その不思議な力を活かしてきょうも人助けに大忙し……。
赤塚不二夫先生の『ひみつのアッコちゃん』といえば、魔女っ子・魔法少女を軸とする変身少女フィクションの流れを考えるさいに避けられない記念碑の一つだ。
おおもとは1962~65年にかけて少女誌「りぼん」に連載されたマンガで、これを原作とするアニメが昭和に2回(1969年・1988年)、平成に1回(1998年)と合計3度テレビアニメ化されており、そこから劇場アニメ版も多数派生している。実写映画化などもふくめ、半世紀以上にわたりちょくちょく動きがあるので世代をつらぬいた知名度を強みとするタイトルである。
そんなアニメ版アッコちゃんを制作したのは、いずれも東映動画あるいは現・東映アニメーション。
東映アニメは現在、変身戦闘少女系キッズアニメの最前線といえる「プリキュア」シリーズでおなじみだが、そのプリキュアを初代からずっと少女誌でコミカライズしているマンガ家といえば?
そう、上北ふたご先生ですね。
「プリキュア」アニメ本編にある少女同士の友愛を濃密に煮詰めた独自の味付けでファンを喜ばせ、“ふたご神”の異名で支持を集める双子姉妹のベテラン作家。
そんな東映アニメと縁深い上北先生が、同じく東映アニメと縁深い『ひみつのアッコちゃん』を21世紀の現代にリメイクした作品。それが、ホーム社のWebサイト「スピネル」で2016年から連載中の『ひみつのアッコちゃんμ(ミュー)』である。
タイミング的には赤塚不二夫先生の生誕80周年記念作品なので、かの『おそ松さん』と肩を並べる企画ともいえる。
リメイク版アッコちゃんは、「鏡を大切にする心を見込まれた少女が魔法のコンパクトによる変身能力をさずかる」という基本型は守りつつも、中学一年生の設定でやや頭身が高めだったり色気づいた心情が強かったり、また魔法のコンパクトがアプリを使うスマホ仕立てだったりと細かいアップグレードの数々に注目できる。
王子様との恋をふわふわ夢見ていたアッコちゃんに課せられるのが鏡の国から地球へ留学してくる王子様の護衛というゴリっとしたお役目なあたりも、“女の子がなりたいもの(なれるもの)”を表面的なロマンスで縛らないよう引き締めるバランス感がみてとれる(ちなみに本作の鏡の国の王子はアニメ第二作に登場するキーオを踏襲したと思われるが、造形はだいぶ異なっている)。
また、上北ふたご先生を経由したプリキュア脳に接続して読むと、王子様“を守る”使命を引き受けたヒロインという点では『Go!プリンセスプリキュア』に感触がつながり、また大人のお仕事体験という意味では最新シリーズ『HUGっと!プリキュア』が改めてアッコちゃんに照り返されるなど、古典と近作がテーマを応酬する相互フィードバック感を味わえるのも面白いところだ。
単に懐かしさに訴えておわりではなく、この21世紀にひとつの新作マンガとして『ひみつのアッコちゃん』を読ませるにはどうすればいいか? という工夫によって感心させられるリメイクになっている。
©上北ふたご,井沢ひろし,赤塚不二夫,フジオ・プロダクション/一迅社