2018.11.08
【日替わりレビュー:木曜日】『前略、前進の君』鳥飼茜
『前略、前進の君』
制服を脱いだ先の未来へ進むあなたへ
中高6年間、同じ制服を着続けた(スカートのサイズは少しずつ大きくなっていったし、靴下は穴が開いたら変えたけど)。朝、制服を着て、学校で授業を受けて、放課後も制服のまま遊び、家に帰ってもお風呂までは制服でだらだらと過ごす。無意識のうちに、私は制服に対してけっこうなアイデンティティを置いていた。青のワイシャツにするか、白のワイシャツにするか、ただそれだけしか悩まない朝があったからこそ、私は自分が何者かを真剣に悩む必要もなく、能天気に生きることができていた。
鳥飼茜先生の描く『前略、前進の君』は、第一話「チャイムの音と共に人生イージーモード終了のおしらせが届いた」というモノローグから始まる。進路希望のプリントを配りながら教師は「学校は皆さんにとって社会の予習段階ですから 制服を脱いでからがあなた達のスタートラインです」という。学校を卒業したら本番の人生が始まる。だとしたら、今の私たちは一体何者なのだろう?
当作品はカルチャーファッション誌「Maybe!」で連載されていたものだ。多感な思春期の女の子が読むマンガとしては、かなりショッキングな描写が多い。しかし、だからこそ繊細かつリアルな心情もある。当然のようにスカートを履き「女の子」として生きる女子高生たちは、自分の性や生、交わり得ない異性に対しての葛藤やもどかしさを抱く。
同じ制服を着て、同じようなものを身につけて、同じようなテンションで生きて、その中でどうしても馴染めない自分の一面があって、漏れ出す衝動があって。そういう女子高生の、大人になってしまえば些細なことになってしまう、生々しい感情が鉛筆画によって荒々しく描かれている。かつてのウジウジと悩んでいた自分に引き戻されるくらいのパワーをもって迫ってくる。
女子高生にとっては、痛々しくも強く生きるエールとして響くだろうし、社会人にとっては、失いかけていた生への衝動を思い出すきっかけとなる一冊だろう。
©鳥飼茜/小学館