2018.12.21
【日替わりレビュー:金曜日】『みにあまる彼氏』ほしの瑞希
『みにあまる彼氏』
ほしの瑞希先生による『みにあまる彼氏』の第2巻が発売されました。
みなさんは「身に余る彼氏」と聞いて、どういう彼氏を想像するでしょうか?
イケメンすぎる彼氏? お金持ちすぎる彼氏? たぶん普通はこの辺を想像するのではないでしょうか。本作『みにあまる彼氏』の相手役となる日下部くんは、そんなありがちな身に余り方しません。彼がどう身に余るかというと……とにかく”愛が重い”のです。
物語の主人公となるいろはは、高校2年になっても未だに恋愛経験ゼロの奥手女子。そんな彼女が、クラス委員を一緒にやったことで、クラスメイトの日下部くんとお付き合いをすることに。しかし彼、なんだかちょっと普通じゃない。
ごくごく普通の見た目なのに、なぜだか恋愛経験が豊富みたい。ほんわかした見た目に反して、付き合っていきなりキスまでされちゃって、経験ゼロのいろははアタフタしまくり。その後も好きだというオーラ全開ながら、そのバルブの開き具合がちょっと尋常じゃないのです。夢のようにはじまったいろはの初恋の行方やいかに……というストーリー。
この作品といい、以前ご紹介した『花野井くんと恋の病』といい、最近は「愛が重い系男子」が流行ってるのでしょうか。
花野井くんはマジでヒロインに振られたら死ぬぐらいの勢いに感じられるのですが、こちらの日下部くんは、一見そんな重そうには見えないのがポイント。むしろ他人への執着とか薄そうな、穏やかで落ち着いた雰囲気なんです。地味グループに所属していて、いつもニコニコしてるし、いろはの友達曰く「100人女子がいたら95人はスルーしそう」という感じの、薄いルックスの持ち主で、なんなら恋愛と縁遠くても違和感ないっていう。
が、蓋を開けてみればミスコン優勝者と前に付き合ってて、復縁を求められるぐらいに恋愛経験は豊富。取り乱さないので絵面的には平和なものの、行動や言動おかしいぞっていう、ちょっと怖いタイプです。過去の女性とのつながりを断つためのアピールとして自分の携帯を躊躇なく水没させたりとか、いろはが男女混合のカラオケに遊びに行っているところをストーキングしてしまったりとか、「や、これ怖くね?」っていう。
で、もちろん本人もそれを自覚していて、引かれないか気にしているのですが、このヒロイン・いろは、すごいです。なんていうか、とーっても良い子なんですよ。ピュアというか、他人を悪意ある目で見ないというか。そういう日下部くんの数々の行動も、割と平然と受け入れて、疑問に思わない。友達に指摘されて、ようやく「へーそうなのか」と気づくぐらいの感じ。
そりゃあ良い関係築けますわという、ナイスカップルなんです。
そんな2人だけだと、ただただ仲の良い距離感が異様なカップルになってしまうので、ツッコミ役をきちんと脇役として配置して物語を盛り上げます。その筆頭がいろはの友達・サッチーなんですけれども、ボケにツッコミに両方できる器用さと、グイグイ間に割って入るアグレッシブさを持ち合わせており、加えて台詞回しが抜群に面白い。
個人的には彼女なしで物語が成り立たないんじゃないかと感じるぐらいなので、読んだ際は是非とも注目してみてほしいです。
重い彼氏ですがヒロインの良い人っぷりで中和されることで、基本的には平和なラブコメという感じ。気楽に読み進められる少女マンガとなっております。読み物としては全く身に余らない、実にちょうどよい作品となっていますので、年末年始のお供におひとついかがでしょうか?
©ほしの瑞希/集英社