2019.03.12
【インタビュー】『スローループ』うちのまいこ「釣りに興味がない人でも読める釣りマンガを」
病気で父親を亡くしたひよりと、交通事故で母親を亡くした小春。親同士の再婚により、ふたりは同い年の義理の姉妹という複雑な関係に。
ふたりはすぐに打ち解けるものの、相手の親とはやっぱり気まずい。そんな状況を救ったのが、ひよりの趣味であるフライフィッシングでした。
ゆっくり、弧を描くように、彼女たちは少しずつ「家族」になっていく。だから、『スローループ』。
あらすじ:「なんか、最近、釣りが楽しい…」 海辺でひとり、亡き父に教えてもらった フライフィッシングを嗜む少女・ひより。 そんな時に出会ったのは、母親の再婚相手の娘・小春で…? ひょんな出会いから「姉妹」になった小春とひよりと一緒に、 「釣り」をしながらスローに過ごしてみませんか?
3月12日に単行本1巻が発売されたのにあわせて、作者のうちのまいこ先生にインタビューを実施。ご自身もよく釣りやキャンプに出かけるという先生の、創作活動のルーツに迫りました。
(取材・文:ましろ/編集:八木光平)
昔から、キャンプマンガ(アウトドアマンガ)が描きたかった
──『スローループ』。ストーリーやキャラクターはもちろん、何よりもタイトルが素晴らしいと思います。シンプルで分かりやすいのに、他のどの作品とも被っていない。
うちのまいこ先生(以下、うちの):実はこのタイトル、友人につけてもらったんですよ。フライフィッシング用語に、フライ(虫などを模した毛針)を遠くまで飛ばすための「タイトループ」という言葉があって、その反対で「スローループ」。
釣りをテーマにしているものの、そこまで本格的な釣りマンガではないので、読者の方にもゆっくり、まったり、ほどほどに楽しんでほしいというくらいの意味合いですね。
──他にはどんなタイトル案がありましたか?
うちの:私自身は、「ととこい!」というタイトルを考えていました。赤ちゃん言葉で「魚」を意味する「とと」に、釣りで魚がかかったときに「来い、来い」と心の中で呟くので「こい」。そこにビックリマークをつけて、ザ・きらら! みたいな……。やっぱり、『スローループ』にしてよかったと思います(笑)。
──「釣り」をテーマにしたマンガを描こうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
うちの:前作『ななつ神オンリー!』の連載が終わるころ、担当さんから「次はアウトドアマンガを描きませんか?」と相談を受けました。友人と一緒に釣りやキャンプに行くという話を私がよくしていたので、それを覚えておられたのかなと。
──釣りだけじゃなく、キャンプもされるんですね。
うちの:というより、もともとキャンプをするのが好きで、その延長線で釣りも始めるようになったんです。なので、昔からキャンプマンガを描きたかったんですけど、きららではもうキャンプものはできないなと思って心の中に封印していました。
──あー……。『ゆるキャン△』の存在ですね。
うちの:今回、担当さんからお話をいただいたのにあわせて、そのキャンプマンガの構想を釣りマンガとしてリメイクしたのが『スローループ』になります。
──単行本1巻にも収録されている第5・6話は釣りキャンプのエピソードですが、あれは先生の「キャンプマンガを描きたい」という想いが溢れてしまった結果なんでしょうか。
うちの:それはないです。『ゆるキャン△』の存在を知ったときは確かに正直悲しかったんですけど、今はキャンプマンガを描きたいという想いは全くないです。釣りキャンプを描いたのは単純に自分が体験した釣りキャンプを小春に体験させたいと思ったからです。
担当編集:打ち合わせ段階で「釣りキャンプ」の話になると言われたときは、一瞬「キャンプか…」と思いましたが、釣りとキャンプは切っても切り離せない関係にありますし、本当に、『ゆるキャン△』との差別化とかは意識せず自由に描いていただいて構いませんよ、とお伝えしています。
むしろ、私が告知の際に「釣りキャンプ」というワードを意識的に入れたせいで、そういう(キャンプ推しの)印象になってしまったのかもしれません…(笑)。
最近、ひよりが何を考えているのか分からなくなってきた
──メインキャラクターのひよりと小春のコンセプトを伺えますでしょうか。
うちの:物語を引っ張っていく2人なので、何もかも正反対にしようと思っていた気がします。見た目に関して言うと、小春のほうは一発で決まったんですけど、ひよりの髪型がなかなか決まらなくて。
担当編集:こんな感じで何パターンか考えてもらいながら、何度も打ち合わせしましたよね。
──ショートカットという部分は同じなんですね。
うちの:ショートカットだけどボーイッシュになりすぎないように、というバランスが難しかったです。あと、ひよりは釣りをするとき帽子を被るので、それでも個性が出るようにと考えて今のデザインに至りました。
──性格面はいかがでしょうか。
うちの:こちらも、ひよりはおとなしい子、小春は明るい子といった具合に対照的な性格になるようにしています。だけど、担当さんに以前「小春が何を考えているか分からない」と言われたことがあるんですが、私は逆に最近、ひよりのことが分からなくなってきました。
──ご自分が作ったキャラクターなのに、分からなくなることがあるんですか?
うちの:昔から、事前にキャラクターの設定を決めるのが苦手なんです。本当は矛盾が起きないようにちゃんと考えるべきなんでしょうけど。第1話も、とりあえずネームを描かせてくださいと担当さんにお願いした記憶があります。
──ひよりはおとなしいけど友達がいないわけではなかったり、小春も明るいけど気遣いのできる子だったり、ステレオタイプなキャラクターじゃないところに魅力を感じます。
うちの:よく使われるフレーズですが、キャラクターが勝手に動いてくれたというやつですね。実際にマンガを描いてみて初めて、ひよりたちはこういう子だったんだと気づかされることが多いです。
──ひよりの幼馴染の恋(こい)ちゃんは、最初から登場させる予定だったんでしょうか。
うちの:恋ちゃんは、まずフライフィッシング専門店をマンガに出したいという話になって、そこの看板娘として考えたキャラクターです。ひよりはそのお店の常連だろうし、だったら昔からの知り合いかなと思って、幼馴染設定も追加しました。
デザイン的には恋ちゃんが一番好きなんですが、描くのは難しいですね。髪がふわふわしていて。
──あとはキャラクターというか、マスコットキャラの「シーにゃん」もかわいいです。
担当編集:私も大好きです。うちの先生から原稿が送られてきたら、真っ先にシーにゃんがどこにいるか探すくらい(笑)。
うちの:毎月必ずどこかには描くようにしてますが、描き忘れていると「シーにゃんいないよ!」ってダメ出しが入ります。
読者の方にも、釣りや料理をしたいと思ってほしい
──釣りの中でも、一般的には馴染みが薄い「フライフィッシング」を題材にしたのはなぜですか?
うちの:別にマイナー趣味を狙ったわけではなく、私がフライフィッシングしか釣り方を知らなかったんです。むしろ、連載を始めてから餌釣りにも挑戦するようになりました。
──取材などもされているのでしょうか。
うちの:はい。芳文社のオフィスの近くに「Hermit(ハーミット)」というフライフィッシング専門店があるんですが、そこの店長さんや常連のお客さんに色々聞いたり、実際に釣りに連れて行ってもらったりしていて、本当にお世話になっています。
作中に登場するお店も「Hermit」をモデルにしていて、単行本にもスペシャルサンクスとして名前を出させてもらいました。多くの方々のおかげで『スローループ』ができていると言っても過言ではありません。
──釣りマンガを描く上で意識されていることはありますか?
うちの:釣りをしているシーンで、上から見下ろす構図を描くのがとにかく大変ですね。ロッド(釣り竿)を振ったときのしなりって、上から見るとどうなっているんだろうと想像するしかなくて。横からの絵なら、写真を見ながら描けますけど。
担当編集:フライフィッシング用のライン(釣り糸)は他のものより長いので、引きの絵を多く入れないといけないのもビジュアル的に難しいだろうなと。前作は4コマでしたが、その意味でも本作はストーリー形式にして正解だったと思います。
──釣った魚を調理するシーンも、血の描写がリアルでドキッとしました。一瞬、小春が怪我をしたのかと。
うちの:最初はもうちょっとパパパっと描いていたところ、担当さんに指摘されて修正しました。ただ、魚とはいえきらら作品で内臓を出すのはどうかと思ったので、そこは擬音でごまかしていますが。
──担当さんが指摘したのは、『スローループ』を料理マンガとしても読んでもらいたいから?
担当編集:それもありますが、『スローループ』は読者の行動を促すマンガを目指しているんです。
ひよりがフライフィッシングをしていたら自分も釣りがしたいと思ってほしいし、小春が料理をしていたら自分も作りたいと思ってほしい。なので、アウトドアをしたことがない方が読んでも分かるように詳しく描いてくださいとお願いしました。
©うちのまいこ/芳文社
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