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2019.04.06

ギャル系JK × 顔をグルグル包帯巻きにした妖怪男子!胸キュン人外ラブコメ! 『伊藤くんは恋を知らない。』岩飛猫【おすすめ漫画】

『伊藤くんは恋を知らない。』

本日のピックアップは、以前このレビューコーナーで取り上げた『お嬢と七匹の犬』の作者・岩飛猫先生による『伊藤くんは恋を知らない』。妖怪男子×女子高生の知識・認識ギャップがおもしろくもやがて切ない学園ラブコメファンタジーだ。

連載はフレックスコミックスのWebマンガサイト「COMICポラリス」「COMICメテオ」で配信、先行するポラリスでは今年3月上旬に最終回を迎え、単行本は全3巻をもって完結している。

ある日、とある学校にひとりの男子が転校してくる。伊藤カズキ。よくあるような名前だ。しかし見かけは普通でない。なぜか顔をグルグル包帯巻きにして表情をすっぽり隠しているのだ。

これに興味をもったのが、同級生のギャルっ子・吉内アイカさん。イタズラ心から伊藤くんの包帯を取っ払って素顔を見ようとしたが……ない。目も鼻も口もない。顔がない!

「のっぺらぼうって妖怪なんだ。ねえ僕のこと秘密にしてくれる?」

話を聞けば伊藤くん、人間について勉強するため“異界”からやってきたのだという。現代の妖怪たちは人間と関わる気をすっかり失い、ほとんどが引きこもっている。それじゃあまりに退屈すぎる。妖怪たちにまた人間社会への興味を抱かせて異界を発展させたい。そのためにまずは自分が人間のことを学ばなくては!

のっぺらぼうという妖怪の、顔面に何もないデザインで「物事や気持ちを知らない」という白地のキャンバスめいた心理的・意味的な空白を象徴する着想が上手い。よく思いついたな~これ。

さて、そんな伊藤くんの秘密を共有した吉内さん。伊藤くんの質問攻めにぐいぐい押され、いつの間にかレクチャー役を担っていく。

どうして学校では制服を着ているの? 女子と男子の制服が違うのはどうして?
ひとはなぜ乗り物に乗るの? 疲れるから乗り物に乗るならどうして運動をするの?
口がないから分からないんだけど食べ物が「美味しい」ってどんな感覚?
僕たちは仲良しになったから友達。じゃあ“恋人”って何? すごく好きな相手? 親友とは違うの?

「それってどんな好きなの?」

伊藤くんは恋を知らない。人間のことを知らないから、人間がどのように恋をして、ひとを愛するのかまだ知らない。それでは、人間である吉内さんのほうはどうだろう。彼女はちゃんと知っているのだろうか

派手で強気そうなギャルの吉内さん、本来は寂しがりやで情にほだされやすい女の子だ。今まで付き合ってきた元カレたちは浮気性だったり束縛DV気質だったりで、本当に心を開きあう関係を結んでこなかった。そう、表面的な知識や経験は豊かな彼女だが、やはり「恋を知らない」存在なのだ。

ものを教えるためには、教える側がそのものをきちんと把握しておかなければならない。だから吉内さんは伊藤くんに向かって恋とはどんなものか、恋をした者の心身がどうなるのか教える過程で、逆に自分が気づいたり学んだりするステップをふんでいく。ここに、作品の要点がある。

やがて伊藤くんは吉内さんへ恋人になってほしいと頼んでくる。吉内さんとは友達よりもっと仲良くなりたいが、よく分からない。分からないならやってみようという無邪気な道理である。一方、伊藤くんと共に過ごす時間に温かみを感じていた吉内さん、これを了承。かくして人間と妖怪のカップルが誕生し、恋人になってから恋を芽生えさせ育んでいくという不思議な順番で距離を縮めることになる。

おしゃべりする。手をつなぐ。キスをする。スネた相手の機嫌を直そうと頑張る。
友達をまじえての勉強会。海水浴。夏祭り。
恋人同士ですること全部が、伊藤くんと吉内さんの2人にとって恋を知るステップだ。

そしていったん知れば、もう元には戻れない。何かを知ることは、そのぶん自分が変わることだからだ。さらに、ひとの変化には個人ごとのペースがある。ましてや根本的に異質な、価値観どころか寿命まで大幅に異なる人間と妖怪では……。

限られた命をもって大人への階段をのぼる人間の少女と、それを見て焦る妖怪の若者。それぞれがドロッとぬかるんだ心境にあがく終盤が胸に迫る。そこに描かれるのは、何も知らなくてもできた恋から、自他をよく知ったうえであえて結ぶ愛へと向かう変化のせつないプロセスである。

題材やキャラクターは特殊だが、それを通して浮かび上がる情緒はたいへん真に迫って普遍的な青春の像である本作品。優れて正しい意味でのファンタジーだろう。全3巻とコンパクトなので、一気読みをおすすめしたい。

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この記事を書いた人

miyamo

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