内側の濃縮された感情が外にバッと出てくる瞬間が、一番エロい

椎名：あとすみません、ぜひこれもお伝えしたかったんですけど……。

押見：はい、ぜひお願いします（笑）。

椎名：漫画って、感情を描くとスローテンポになって、出来事を描くとアップテンポになると思っていて。押見さんの漫画がどんどんスローになっていっているのは、感情を描く精度がどんどんあがっているからかなと。

押見：感情の高ぶりと共にコマも大きくなって、時間が止まる、というのはありますよね。椎名さんの漫画を見ていても、そう思います。椎名さんは言葉の人だとは思うのですが、肝心なところの感情は絵で表現されますよね。感情が濃密になると、急に絵柄も描き込みが濃縮されてくる。

椎名：それはあると思います。

押見：例えば、こことか。急に髪の毛の描き込みの量が変わる。

椎名：興奮しているからだと思います、私が（笑）。

押見：そうなんですね！ 高揚しながら描いているんですか。

椎名：技術がないので、どうやって絵に感情を出せばいいのかなと考えたんですが、私自身が興奮していたら、興奮が線に出るのかなと。だから、興奮して描くようにしています。

押見：すごく出ています。伝わってきます、感情が。僕もそういう漫画が描きたいと思っているので、すごさがわかるというか。漫画がうまい人はいますけど、なかなか椎名さんみたいに感情を絵で描ける人はいないなと思います。

しかも僕、そういうものを見ると、広い意味で「エロい」と思ってしまうんです。内側に充満している濃縮された感情が外にバッと出てくる瞬間が、一番エロいものだと思っているので。

椎名：はい。漫画を読んでいるので、押見さんの性癖は知っています（笑）！

押見：全部ばれてますよね（笑）。僕も椎名さんの性癖はだいぶ知っていますよ。

椎名：押見さんにとって、やっぱり心と心がひとつになることがエロスなんですよね。

押見：そうですねえ。それに異様な憧れを持っているからこそ描くんだと思います。経験したことはないからこそ、漫画の中で理想を描いているのかなと。

椎名：性癖が似ているところもありますよね。押見さんがフェチズムを感じているポイントを見て、「わかる」みたいな気持ちになることも多いです。『スイートプールサイド』の、プールで剃毛するところとか。あーエロイわ、と思っていました。

押見：ありがとうございます。『青野くん』で、お互いに触れることのできない二人が優里ちゃんの指を使って、キスをしている感触を味わう「秘密のキス」のシーンもエロいですよね。

椎名：工夫しようと思って（笑）。

押見：あと、藤本くんの中に入った青野くんと、優里ちゃんがエッチするところの……この歯！

椎名：私、自分はセックスするシーンを描きたいはずだと、ずっと思っていたんです。それでついに描くぞ！ と思ったら、別に全然描きたくなかったんですよ。エロ漫画みたいな、引いた角度では描きたいと思わなくて。それでカメラをすごく近づけたら、しっくりきたんです。

押見：それで個々の部分を描いたんですね。でも耳と乳首まではわかりますけど、歯か！ と。めちゃくちゃエロいんですけど、めちゃくちゃ怖い、とも思って。

担当：ここだけ突然主観的になりますよね。

椎名：あ！ 確かにここだけ押見さんぽいですね！ だからやっぱり私も同一化にエロスをすごく感じるんですよ。「セックス＝同一化」みたいな気持ちがあるから、主観になるんだなと思います。

担当：『惡の華』での、佐伯さんとセックスするところと描写が似ていますよ。すごくクローズアップしていますよね。部分に。

押見：たしかに描いてますね（笑）。でも僕は「口」ですけど、椎名さんは「歯」ですからね。負けたなって思いました。

この『青野くん』の「歯」のシーンは、エロくもあり、悲しいシーンでもありますよね。藤本くん主観で読んでも、いろんな感情を呼び覚まされる。ずっと藤本くんと優里ちゃんは潜在的な好き同士なんだよな、と思って読んでいたので。

椎名：苦しいですね、ここ。

押見：藤本くんにとっては、一生忘れられないやつだと思います。あと、男性読者としては、藤本くんとセックスすると決まる前に、優里ちゃんが「わたし誰か男の人とエッチしてくるね」って言うのにすごくびっくりしたんです。

──自分が処女でなくなれば、青野くんを自由にできるかもしれない、という理由でこう言いますね。処女でなくなりさえすれば、相手は問わない、と。

押見：優里ちゃんにはこの覚悟があるのか、と衝撃を受けました。セックスには、いろいろなものが入り混じっていますよね。一種類の感情じゃなくて、ぐちゃぐちゃに混じっている状態じゃないと何かが起こらない。『青野くん』にはそれが描かれているのがすごく好きですね。

椎名：ありがとうございます。やっと、ちょっとだけ落ち着いてきました……。

押見：よかった。久しぶりに、こんなにおもしろい会話をしています。

椎名：本当ですか！ まだちょっと頭が真っ白なんですけど……。

押見：僕もだいぶ真っ白ですよ。最近で一番、頭をフル回転させているので（笑）。

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