2019.05.30

【特別対談】『メイドインアビス』つくしあきひと × 脚本家 倉田英之 インタビュー!

ボンドルドとリコの関係は「レクター博士とクラリス」に似ている

──原作マンガについて、倉田さんの思うところをお聞かせください。

倉田:1巻~3巻と読み進めると、マンガ作りがものすごく上手くなっていくのが分かるんですよ。1話目は世界観の紹介が手探りで、モノローグの説明が多い。だけど2巻以降はキャラのセリフと動きだけで、世界観が自然とわかるように進化している。

つくし:キャラクターの作り方が段々わかってきたんです。例えば、最初オーゼンはおじいちゃんだったし、マルルクは普通の女の子の予定でした。

変化のきっかけは小池一夫先生の『人を惹きつける技術 -カリスマ劇画原作者が指南する売れる「キャラ」の創り方-』という本を読んでからです。「膨大な背景を持つキャラクター同士をぶつけると、何かしら起こる。それがドラマになるので、それを描け」とこの本から教わりました。

『人を惹きつける技術 -カリスマ劇画原作者が指南する売れる「キャラ」の創り方-』(小池一夫,講談社)

ボンドルドとリコたちをぶつけさせるだけでドラマが生まれるんですよ。これが「キャラが勝手に動く」ってことなのかって自分なりに解釈しました。

倉田:ボンドルド編の脚本を執筆していて、ボンドルドとリコの関係がどこか「同病相憐れむ」みたいな、理解し合ってる関係に見えてきたんですよ。

これって、『羊たちの沈黙』や『ハンニバル』のレクター博士とクラリスの関係に似ているなって。レクターがクラリスを生かしておく理由って、「君がいる方が世界が興味深い」から。お互いをよく理解しているこのセリフは、ボンドルドとリコの関係にも共通しているんじゃないかな。

つくし:そうですね、どこか相手にシンパシーを感じている。

倉田:ボンドルドがリコに「……君は私が思ってるより ずっとこちら側なのかもしれませんね」と言ってるし、リコも「私は……ロマンは分かるのよ。あなたはこれっぽっちも許せないけど」って返す。すごくお互いの主張を汲み取っているなと。

実はお互いを理解しあっているボンドルドとリコ

倉田:距離をとりながらも、お互いに魂が惹かれあっている。あのあたりになるとリコもボンさんもキャラとして完成されていて、すごくいい掛け合いだよね。

つくし:ボンドルドとリコの会話も二人に任せっぱなしで、すごく自然に出てくるんです。作者としては違う展開に行って欲しい時も、キャラが勝手に動いちゃうんです。

キャラの名付け方は、叫んだ時に間抜けにならない響きに気をつけた

──タイトルはどうやって決まったのでしょうか?

つくし:最初は「ハローアビス」だったんですけど、インパクトが弱いって当時の担当編集に言われて変更しました。検索でヒットしない単語をあれこれ考えて、『ジョジョの奇妙な冒険』のスタンドでも使われている「メイドインヘブン」ってクイーンの楽曲から決まった感じですね。

倉田:話が進むにつれて、この作品がつくしさんという深淵の中から生み出された感じが伝わってきて、「アビス=深遠とか闇」とも訳せるし、秀逸なタイトルを付けたと感じます。

つくし:ありがとうございます。あと、キャラクターの名前もマルルク以降は被りを気にして、すべて検索をかけてるんですよ。

──それで私の中では発音しづらい問題が発生しています。特に成れ果て村に入ってからの新キャラが、みんな発音しづらくて。

つくし:でもワズキャンはあずにゃんと同じなので。

倉田:あずにゃんか〜(笑)。

つくし:あずにゃんっぽい語感がちょっといいな、と(笑)。

ワズキャンはあずにゃんと同じ……?

倉田:ファンタジー作品でも名前の響きで、どの国に寄った文化なのかはなんとなく見当がつく。でも『メイドインアビス』の名付け方って絶妙に無国籍っぽいバランスなんだよね。

つくしプルシュカとか、たまにロシアっぽいのが出てきますけど、言われてみればそうですね。リコとレグだけは最初に何も考えずに決めちゃったんですが、その後からは小池先生の「名前は大事だ。こいつに呼びかけた時に、その顔をしているかが重要だ」って教訓に従って名付けてます。

ボンドルドの娘、プルシュカ

あと、叫んだ時に間抜けにならない響きであるように気をつけました。『天空の城ラピュタ』のシータとパズーって、めっちゃ叫びやすいし据わりが良いんですよ。あの名前の響きは見事に決まっていていいなって感じます。

倉田:燃え盛る城壁の中で、フライングマシーンに乗りながら「シーター」「パズー」って叫ぶところ、名シーンだよね。でも「ボンドルド」ってよく思いつきましたね。スタッフには「ボンさん」って呼ばれてるけど(笑)。

つくし:機械マスクと怪獣っぽい名前がすごくピッタリとハマったんですよね。

倉田:だってボンさん、本当に怪獣だもん。それに「遺物」っていう世界観が広がるアイディアをよく出したよね。事態の解決に役立つし、これは『ジョジョ』のスタンドみたいなもんだなと。

つくし:でも、遺物には一応メリットとデメリットがちゃんと用意されています。

倉田:そのバランスが他のマンガに比べてハンパなく重いというか。

つくし:それは『HUNTER×HUNTER』の影響ですね。

倉田:あーなるほど! 読んでいてヒリヒリする感覚とか、本当にキャラが酷い目に遭う感じとか。たしかに共通しているね。

つくし:『HUNTER×HUNTER』の念能力、漢字にカタカナでルビが振っているのがめちゃくちゃクールに見えて。例えば「精神隷属機」っていう遺物には”ゾアホリック”ってルビを付けたり。

ボンドルド編でキーとなる遺物、ゾアホリック

倉田:それ、アニメでやるの大変なんですよ。遺物が出てくる時、カタカナで叫ばせた方がいいのか、漢字で叫ばせた方がいいのかって毎回悩む(笑)。

──遺物自体に元ネタはあるんですか?

つくし:全部じゃないですけど、「星の羅針盤」などは『マジック・ザ・ギャザリング』が元ネタです。「このコンパスは故郷を指してる」とかめちゃカッコいいフレーバーテキストが書いてあるんですよ。『マジック』での火葬が「インシネレート」って書いてあったので、じゃあレグの火葬砲は「インシネレーター」だろうって決めました。

手のひら、足裏から光線を発射する「火葬砲(インシネレーター)」

7巻のクライマックスは、某激ムズRPGから!?

倉田:あとミーティの件とか、尊厳死や介護老人といった現代的な問題も含んでいるのもすごいと思う。自分が死んだ後にミーティだけが残っちゃうと、そっちの方が不幸なんじゃないか? ってナナチが思いつめていく感じ。これは計算したのか偶然なのか。

つくし:それは偶然です。物語上なるようになっちゃった感じですね。

倉田:自然に含まれているのは良いマンガだと思います。無理やり社会的テーマを入れると不自然になっちゃうから。唯一不自然なのは、マルルクがメイド服を着ていること。

オーゼンの弟子・マルルク

つくし:あれはオーゼンさんの趣味なんでしょうがないです。まあ直弟子なんで(笑)。

倉田:7巻は地味にスタートして、最後の方でド派手なアクションが始まりますが、これは計算ずくなんですよね?

『メイドインアビス』7巻書影

つくし:そうですね、派手なアクションはやっておきたいとずっと思っていて、ここでしか描けないだろうと気合を入れました。

──オオガスミとジェロイモの戦いは、『パシフィック・リム』っぽいと感じたんですが。

つくし:あれは『ダークソウル』の途中に出てくる、でっかい中ボスから発想しました。プレイヤーが足元をチクチクやって倒すんですけど、このでかいボス同士が戦ってるやつが見たいなってところからの着想ですね。

オオガスミとジェロイモの戦い

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