2020.07.08

【インタビュー】『よふかしのうた』コトヤマ「こういう子、可愛くない?って読者に問いかけながら描いている」

マンガを描くのは全部が楽しく、全部が辛い

──次に、コウの幼なじみの朝井アキラについてはいかがでしょうか?

コトヤマ:ナズナとは全く別方向で、好みの外見と性格の女の子です。『だがしかし』の遠藤サヤも同じなんですけど、「タイプの女が描きてぇ!」って気持ちで描いてます。

(一同笑)

コトヤマ:アキラの登場回数はめっちゃ多いわけじゃないんですけども、出てくるときは作画が楽しいですね。

──吸血鬼サイドも、可愛い女の子たちがたくさん出てきます。

コトヤマ:それぞれ、自分の好きな要素をどこかしら入れてます。でもまだ完全に自分の中でばっちり決まってない感じはしていて、これからいっぱい練習しなきゃなって。

デザインで一番考えたのが、吸血鬼だからって人間離れしてる外見はやめようと。「その辺にいそうな可愛い子」くらいの気持ちでデザインしてます。

──キャラクターによって描きやすい、描きにくいってあるんでしょうか?

コトヤマナズナの三つ編みが描けないっていつも悩んでます。作画が切羽詰まってる時は、やらなきゃよかったみたいな後悔が(笑)。

でも、何を描いても描きやすい時と、何を描いても描きにくい時があります。完全に自分の中にあるものだけで描いた時って、めちゃくちゃ描きやすいんです。ですが、「キャラクター=自分」ではないので、自分が想像しなかったことを考えて動かなきゃいけない時は苦労しますね。

──けっこう悩みながらマンガを描いてらっしゃる?

コトヤマ:本当に全部悩んでます。苦労してないところってほとんどないと思います。前作の頃から、マンガを描くことは全部が楽しいし、全部すごい苦労して辛いなって、両方抱えています。

なんだかんだで『だがしかし』の後半では、「マンガの描き方にやっと慣れてきたかも」って瞬間があったんです。だけど『よふかしのうた』では、その慣れてきた感覚を一切活かせなくて、しんどいですね。

──3巻のあとがきに書かれていた「描き方を変えた」というのがそれですか?

コトヤマ:そうですね。変えたというか、同じやり方ができませんでした。『よふかしのうた』は全然違う描き方をするしかなくて、マンガって大変なんだなって実感しています。

「こういう子、可愛くない?」「良いね」でコミュニケーションが成立する

──読者人気の高いキャラクターやエピソードについて教えて下さい。

担当編集やっぱりナズナが一番人気で、読者の皆さんが好いてくれているのは感じます。人気のエピソードは、なんといっても新連載の一発目で、ものすごく反響をいただきました。

それと2巻の最後、会社員のキヨスミ編も好評でしたね。コウが「こんなの やめられるわけない」って回で、人気の山がもう一つドカンときました。

その流れにのって3巻の前半、吸血鬼メンバーが登場する回でもすさまじい人気でした。

──前作に比べて『よふかしのうた』では登場人物が増えています。

コトヤマ:増やそうと思って増やしたわけじゃないんですけど、結果的に増えちゃいましたね。

編集:『だがしかし』ではキャラクターが少なかったので、今作で吸血鬼が5人ドドン! と出てきたのはインパクトが大きかった。そこはすごく反響をいただきました。

──そういった魅力的なヒロインを描くコツはなんでしょうか?

コトヤマ:自分自身、もっと魅力的な描き方を知りたいんですけど……自分が「好みだな、めっちゃ可愛いな」って思う部分をそのまま作品に出せたら、見ている人にも伝わるのかなって気持ちで描いています。

「こういう子、可愛くない?」って問いかけているつもりです。だから「別によくない」って言われたら、そこで終わるだけなんですけど(笑)。読んでくれた人が「良いね」って思ってくれたら、そこでコミュニケーションが成立する。そういう感覚です。

「うぇーい!」ってノリも夜だと受け入れてしまう、不思議な雰囲気

──先生ご自身に似ているキャラクターはいますか?

コトヤマ:キャラクターを作る時って、やっぱり全部、自分の中にあるものから始まってるんです。自由奔放にフラフラしていたいって自分の感情から生まれるキャラクターとか、しっかり生活したいって気持ちから生まれるキャラクターとか。

全部自分から出ているところに、自分じゃないものを足して、膨らませている感じです。だから全員似てるし、似てないんだろうなって。

──夕 真昼(セキ マヒル)みたいに、みんなの人気者って一面もあったり?

コトヤマ:マヒルは「こういう自分だったらいいな」って理想の一つです。マヒル君みたいな良いヤツが友達だったら超楽しいだろうなって感じですね。

──ご自身の経験がマンガに反映されることは多いんでしょうか?

コトヤマ:大体のことは、経験したことや感じたことを、マンガ的に肉付けして描いていることが多いです。もちろん、ナズナとコウのような出会いをしたとかではなくて、夜中に歩きながら「こんな事が起こったら面白いのかな?」って考えていったことが元になっているんです。

──1話目で酔っぱらいの人たちと「うぇーいうぇーい」みたいな、ああいう謎のテンションが発生したり?

コトヤマ:ありましたありました。それっきりで別れて、別に連絡先を交換して友達になるとかじゃないんですけど。もうほとんど会話なんかないんですよ。「うぇーい!」って言われて「うぇーい!」って返すノリ(笑)。

同じことを昼間にされても、絶対に「えっ? 何? 気持ち悪い」って避けてしまうんですけど、なんとなく夜だと「いいかな?」って思えてしまうのが、夜の不思議な感覚です。

担当編集「繊細さと大胆さを兼ね備えている作風が特別」

──マンガを描く時に、意識している点はありますか?

コトヤマ展開的に都合のいい、イヤな奴を出したくないってところは心がけています。「ナイトプール」の回でナズナをナンパしにくる男たちとか、ああいうのを悪者にしちゃうの、なんかズルいなって気がしてしまうんです。

──彼らもけっこう良いヤツなんですよね、心のなかでコウを応援していたり(笑)

コトヤマ:はい、彼ら自身が悪いわけじゃないですもんね。

──これは絶対にしない、キャラにやらせないなど禁止事項はありますか?

コトヤマ:うーん……例えば僕のマンガでは、自転車の二人乗りとか簡単に描いちゃったりするんですけど、マンガだから、フィクションだから許してほしいって気持ちで描いてはいます。禁止事項というほどの禁止事項は今のところないんですが、ギリギリの倫理観を守っていきたい、くらいですね。

──担当編集からみた『よふかしのうた』の魅力はどこにあると感じていますか?

担当編集:『よふかしのうた』、ひいてはコトヤマ先生の魅力だと思うんですけど、繊細さと大胆さを兼ね備えている作風が特別なのかなって感じます。

夜の情感だったり、夜にしかない特別感。不登校の少年だったり、眠れない会社員だったりを、すごく繊細に表現されています。

その一方で、とにかく魅力的な女性陣のキャラクターや、吸血鬼ならではの派手なアクションが入ってくる。「こんなところでギャグ入れるんだ!」ってビックリする笑いが急にポンって入ってくる大胆さもあります。

──相反する要素が、一つの作品で調和しているのがすごいです。

担当編集:繊細な作品、あるいは大胆な作品、どちらか一方で勝負する作品はたくさんあると思うんですけど、真逆な二つを両立させているのが魅力的だと思います。

コトヤマ:ありがとうございます(笑)。

──デビューから6年が経ちました、今のご心境はいかがですか?

コトヤマ:まだ新人のつもりなので、6って数字が大きいのか小さいのか、長いのか短いのか、よく分からないです。新人なので、初心を忘れずに頑張っていきたいと思っています。

──前作『だがしかし』がヒットして、ノベライズやアニメ化などメディアミックスを一通りご経験されて、一回り以上成長されているってお気持ちはあるんじゃないでしょうか?

コトヤマ:いろんな方に作品を広げていただいて、ありがたくもたくさんの展開をやっていただきました。でもメディアミックスは自分の力だけじゃできないことなので、運がよかったんだろうし、環境や時代の雰囲気もあったと思います。

「自分がすっげー頑張ったからアニメ化までやったったぜ!」みたいな気持ちはまったくないんです。すごく嬉しい。はい。それだけです。

──不意にプレゼントを贈られて嬉しいサプライズって感じですかね。

コトヤマ:自分の実力とはまったく思えないので、本当に運だなって。

──『だがしなど ~未収録作品&イラスト集~』によると、ツールを含めて作画環境を頻繁に変えられてる感じを受けました。

コトヤマ:マンガの作業自体は昔から変わっていません。ペン入れまでアナログで描いて、トーンなど仕上げ作業をパソコンでやるって方法のままです。

ただ、カラーイラストを描く時に液タブに挑戦してみたり、試行錯誤してみた結果カラーはiPadが一番かなって。それ以来ずっと使い続けてますね。

──カラーの話だったわけですね。

コトヤマ:はい。あと一つ、環境的に大きく変わったことがあります。『だがしかし』から『よふかしのうた』って単純にページ数が8ページから、16ページや18ページに増えているんです。なのでアシスタントさんが一人だけだったのが、今は4人体制になっています。

──連載に慣れてきて作画スピードは上がりましたか?

コトヤマ:上がった気はしないんですよね。ページが増えて、絵に割ける時間はむしろ減っちゃったんじゃないかなって。もっと時間かけて描けるようになったらいいのにな~って。

──『だがしかし』連載終了後、どんな充電をされましたか?

コトヤマ:ゲームは多少してましたが、充電って意識はないです。連載終わって、引っ越しをして、あとはお酒を飲む量が増えました

──(笑)。『だがしかし』の頃からお酒のシーンが多いんですけど、それも趣味が反映されているんでしょうか?

コトヤマ:酔うと楽しいって気持ちが自分の中にあるから、キャラクターが飲んでて楽しそうなシーンを描いています。個人的にはビールやウイスキーをちょいちょい飲んだり、逆にワインは身体に合わなかったり。

父親の大友克洋好きに影響された、思春期のマンガ遍歴

──子供の頃からマンガは読まれていたんでしょうか?

コトヤマ:物心がついた最初の記憶では『ゲゲゲの鬼太郎』を読んでいました。妖怪が好きだったんです。それと『ドラゴンボール』が大好きになって、鬼太郎と悟空を模写する毎日でした。小学校一年生だったか、幼稚園の頃かも。

──中学高校でもずっと絵を描かれていたんですか?

コトヤマ:はい、中学生になって大友克洋先生のマンガを、「お前も読め」って父親に渡されて、読んで、ハマって、模写するのにこんなに時間がかかる絵ってあるのか!って驚愕して。親父は本当に大友克洋大好きおじさんだったんです(笑)

その頃から繰り返して読んだのは、『ドラゴンボール』と『AKIRA』と松本大洋先生の『ピンポン』ですね。

──その頃からもうプロは意識されていたんでしょうか?

コトヤマ:マンガ家になりたいって気持ちはたぶんあったとは思うんですけど、描いていたのはマンガじゃなくて、本当にお絵かき、落書きだけしていただけでした。マンガを描き始めたのは20歳くらい。アシスタントしながら、時々描いてたくらいですね。

──TSUTAYAコミック大賞でご自身の作品以外で投票するとしたらどの作品を選びますか? 対象は2020年3月31日時点で、単行本が最大5巻まで発売している未完結の漫画作品です。

コトヤマ:(「第4回 みんなが選ぶTSUTAYAコミック大賞」のWebページを読みながら、)『夢中さ、きみに。』は最高ですね。『極主夫道』も良いし、『異世界おじさん』も大好きですね。

僕の心のヤバイやつ』も完全に最高のやつだし、あとは『神クズ☆アイドル』とか、『潮が舞い子が舞い』もマジでいいです。

ヒップホップの、リアルを追求した表現力に惹かれる

──マンガ以外の作品で影響を受けたり好きな作品は? Twitterを拝見すると、マーベルがお好きなのかなと。

コトヤマ:好きですね、でもただのファンとしてであって、影響とかはないんですが。映画もコミックも、『キャプテン・アメリカ』がカッコよくて好きです。

──また、ヒップホップの話題もたびたびつぶやかれています。そもそもマンガのタイトルが、Creepy Nutsの楽曲「よふかしのうた」に触発されたとのことですが。

コトヤマCreepy Nutsの曲を聞いて、曲名を見て、「あ、もうこのタイトルしかないな」って直感です。最初からもう、完璧なタイトルとしてバシッと決まったんです。それで許可をお願いしたところ「ぜひ使ってください」とご快諾いただけて。あまつさえ作品PVで曲を使わせてまでいただけて、もう嬉しいの一言です。

──ヒップホップはよく聴くんでしょうか?

コトヤマ:はい。中学生ぐらいの時、KICK THE CAN CREWRIP SLYMEが流行った時期にハマって、そこからずっと聴き続けています。

──おすすめの曲を教えて下さい。

コトヤマN&Pの「サンセ」。この曲がめちゃくちゃ好きです。歌詞に込められた情緒がものすごく深いんですよ。

ヒップホップって、セルフボースティングっていう「俺ってこんなにすげーんだぜ!」って自分を褒めるのが強めのジャンルなんですけど、この曲の歌詞はそれとは違う角度の情景と情緒がつまっててすごく綺麗なんです。公園とかで見たり感じたことが、そのまま歌詞になっているのが素敵なので、ぜひみんな買って聴いてみてねって思ったり(笑)。

N&Pの「サンセ」も収録される『NPEP』

──かなりお詳しいですね。

コトヤマ「ネットラップ」っていう、インターネット上にあるトラックメイカー(作曲家)が提供するトラックを使って、ラッパーがオリジナル楽曲を制作する文化があるんですけど。

──「ネットラップ」といえば、らっぷびとさんとかですよね。

コトヤマ:そうです、いわゆる不良系の音楽だったヒップホップが、らっぷびとさんらのネットラップによって広がった感じがあったんですよね。

不良の音楽じゃなくて、リアルを追求した歌詞で「こういうラップもアリなんだ」って刺激を受けたんです。

それが自分の作品に影響を与えているのかは正直わかりません。ただ、自分のリアルを突き詰めて歌詞にしている、ああいう現実味のある表現力を面白がって「自分でも、そういう言い回しを作れるようになりたいな」って思った気はします。

──最後に皆さんへのメッセージをお願いします。

コトヤマ:漫画を描く時は、「こういうのって良いよね?」って問いかける気持ちで描いています。その「良いよね?」に対して、読んでくれた方が「良い」と言ってくれたら、コミュニケーションが成立して、すごく嬉しい瞬間なんです。

未来のことはわかりませんが、これからも多分、そういう問いかけでマンガを描いていくと思います。引き続き『よふかしのうた』に付き合ってもらえたら嬉しいです。ありがとうございました。

──本日はありがとうございました!

作品情報

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第4回 みんなが選ぶTSUTAYAコミック大賞

『よふかしのうた』がトップ10にランクインした『TSUTAYA×comicspace 「第4回 みんなが選ぶTSUTAYAコミック大賞」』は、次にヒットする「ネクストブレイク作品」を読者投票で決めるマンガ賞です。結果発表ページでは、大賞作品や上位10タイトルに加え、一緒に投票されたタイトル投票が多かった人気作品をご紹介しています。

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かーずSP

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