2021.01.13
【インタビュー】『時間停止勇者』光永康則「ゲームのプレイ実況動画の気持ちよさを、漫画に落とし込む」
ある世代以降が抱く、ファンタジーのイメージ像を裏切らないキャラデザ
──ここからは登場人物を深堀りしたいと思います。まずニーニャについて。
光永:冒頭から牢屋に入っているセカイの聞き役となる人物が必要でした。そうすると女の子でシーフかなって着想で生まれた子です。
なにせ痴漢行為ばかり出てくる漫画なので、イノセントな少女を出して、ちょっと作品全体をウォッシュしてほしかった。
──スケベさを、洗浄して清くしてくれる子(笑)
光永:僕らのマインドをちょっとキレイにしてくれる、清涼剤みたいな存在です。
──フューリィはいかがでしょうか。
光永:担当編集さんと「奴隷エルフとダークエルフ、どっちにしようか」って会議をしました。
──奴隷エルフの方がボツになったんですね。
光永:「高貴な身分なんだけど、奴隷にまで身を落としてしまったがゆえにプライドが異常に高い子」……今のフューリィもそれを多少引き継いでいるわけですが、単純に見た目で「ダークエルフいいよね」って決まりました。担当さんがすごい「ダークエルフ、ダークエルフ!」って推してくるんですよ。
担当編集:僕は『ロードス島戦記』に出てきたピロテースがトラウマになったくらい好みなんです(笑)。
ニーニャがスレンダー体型なんで、ムチムチ系がいいだろうってことで、巨乳ならダークエルフだろうという偏見が……それと『BASTARD!! -暗黒の破壊神-』に出てくるアーシェス・ネイも良いですよね!
光永:その二人は、日本人の中にあるダークエルフを形作るイメージの象徴じゃないですかね。「女戦士」って言われたら、真っ先に『ドラゴンクエスト III』のヘルメットをかぶった鳥山明先生のイラストが思い浮かぶのと同じで。
ある世代以降から、共通のイメージ像になっているんだと思います。
──大ヒットしたゲームや映画などを、みんなが共通体験として経験しているからですよね。
光永:メインヒロインに関しては、そこは正直に拾っていきたい気持ちがありました。
──続いてリーファ・クロービィ。自画自賛のセリフで毎回イキってるのが笑っちゃいます。
光永:剣聖なのに謙虚じゃないっていう形が変なツボに入ってくれて、そこからすごく動かしやすくなった子ですね。サンドワームの時の「剣聖から剣を盗んだ」ってセリフから、剣聖を出そうと決めました。剣聖っていうと、ゲーム「タクティクスオウガ」に出てきたソードマスターのハボリムが真っ先に浮かんできたんです。
──剣聖のイメージはそこからですか。
光永:『タクティクスオウガ』を遊んだ人ならみんなお世話になったと思うんですよ、ハボリム先生。
──ロウルート以外では心強い味方になるんですよね。でも盲目の爺さんではなく、女性の剣士として描いてます。
光永:脱がしても面白くない人は男性に、面白い人は女性になりがちな部分があって、この漫画の人物構成がどんどん偏っていく……(笑)。名乗り口上が長いとか、意外とありそうでなかったキャラクターに育ってくれたように思います。
──個人的に岩吉が好きなんですけど、誕生エピソードを教えてください。
光永:読者の皆さんもお気付きの通り、時間停止中に物を移動させたりするのは、セカイくん一人ではやはり無理が出てくるんですよ。初期は、リヤカーでフューリィとニーニャを運んでいたんですけど。
でもセカイをサポートしてくれるヤツがいないとやっぱり困る。セカイ本人も、切実にそういう人を欲しがるだろうということで登場しました。
──ゴーレムにした理由はどうしてですか?
光永:使役するモンスターっていえば、ゴーレムが一番イージーに想像しやすいので、すぐに決まりました。
担当編集:セカイ君が時間止めて、岩吉と工作を始める時に「パーン!」ってハイタッチするシーンが好きなんですよ(笑)。
──あれって、セカイが頭の中で命令してハイタッチやらせてたってことですか?
担当編集:フューリィの前掛けを勝手にめくったりしているから、自律行動している感じもあって、どっちか分からないんですけどねー(笑)。喋らない岩吉ですけど、意外とそういうところで感情があるっぽいのがいいですよね。
©︎光永康則/講談社