2021.01.13
【インタビュー】『時間停止勇者』光永康則「ゲームのプレイ実況動画の気持ちよさを、漫画に落とし込む」
読者たちがネットで盛り上がれるライブ感が、「時間停止勇者」の魅力
──この漫画ならではの苦労した/悩む部分はありますか?
光永:作中のタイムスケジュールが密かに悩みの種です。3日間のうち、今日は何日目の……これ早朝じゃない? みたいなことで混乱しちゃうことがあります。
セカイは時間を止めて寝たい時に寝るからいいけど、周りのフューリィたちはそうじゃない。正しい時間軸を生きてる人たちと、でたらめな時間を生きてるセカイ。両者の擦り合わせが、「時間停止勇者」だけの地味に難しい悩みどころです。
──グロいクリーチャーが出てきますけど、『怪物王女ナイトメア』とデザインが被らないようにしなきゃいけないって苦労とかもあるんですか?
光永:『怪物王女ナイトメア』の方は、基本的にファンタジー系のモンスターは出さないって決めてるんですよ。
──なるほど、現代劇だからクトゥルフ神話やゴシックホラーからは採用するけど……ということですね。
光永:はい。RPG系のモンスターは、なるべく可能な限り出したくないっていう。それは前作の『怪物王女』を描く時から、「モンスターをどこからどこまで出すか」を決めていたんです。『怪物王女』は、ホラーという題材から外れないようにしたかったんですよね。
──編集者から見た本作の魅力はどこでしょうか?
担当編集:「時間停止勇者」は、どこまでバカなことができるのかって部分をすごく楽しんでいます。
ニコニコ静画内の「水曜日のシリウス」でも本編を公開しているんですが、コメント機能でファンの皆さんが楽しいリアクションをくれるんですよ。
ここで笑ってほしいってところで、「草」とか「こいつヒドい」とかちゃんとリアクションしてくれる。そういったライブ感が、「時間停止勇者」の魅力だと思っています。
──体験型の漫画ならでは、ですね。
担当編集:「月刊少年シリウス」で掲載した1話を分割してニコニコ静画に載せているんですけど、前半・中盤・後半で見せ所をきっちり作っていただいているから、分割したそれぞれにも、ちゃんとオチがついているんです。
──1話の中にいくつか山場を作っていく、この区切りは意識して作っているんでしょうか?
光永:僕の漫画では、すべてのエピソードは左ページ左下で終わるように作られています。なので、どこで切ってもだいたい大丈夫だと思いますよ。
担当編集:もちろん単行本で読んだ時に読み応えがあるようにきっちり作ってあるんですが、Web掲載と親和性が高いので、1話を分割して載せるニコニコ静画でもしっかり楽しんでくれる。
読者がいろんな楽しみ方をできるところが、『怪物王女ナイトメア』とはまた違った魅力があるんです。
光永:みんなが面白がることをどんどんネームに盛り込んでいきたいので、反応をいただけるのは嬉しいですね。
担当編集:「時間停止勇者」のスタート地点は、他の異世界ものと一緒の始まり方をします。ですが話が進むにつれて、ぜんぜん違うものになっていってます。アイディア、ネタの広げ方、転がし方がすごいんです。そんな光永先生の名人芸も、大きな特徴だと思います。
光永:なるべく読者に予想させておいて、予想通りのものを出しつつ、裏切る。みんなが面白がってくれたらいいなってことを毎回必死にやっているだけです。
セカイが読者の予想を超えるバカなことをやって、「ここまでアホなことをするとは思わなかった」って思ってもらえたら嬉しいです(笑)
バカしか出てこない会話のおかしさも、「時間停止勇者」の魅力
──光永先生の、お気に入りエピソードやシーンを教えて下さい。
光永:街の人を避難させる回ですね。この漫画を短いスパンで考えた時に、ここまで描けたら最低限満足できるっていう、一つの中間ゴールとして用意したエピソードがそれです。
──3巻の第9話が一つの大きな区切りだったんですね。
光永:「時間を止めてできる、一番の善なる行いは何か?」って自分に問うて、僕が思いついたのがそれでした。城下町一つ、丸ごと物理的に救えたら最高だよなーって思いながら連載を進めていました。
──担当編集さんの選ぶ、お気に入りのシーンはどこでしょうか?
担当編集:「武装解除」という必殺技を一番最初に出したところですね。クラウって気の強い姫騎士に必殺技を繰り出すんですけど、あれは素晴らしい見開きでした!
光永:技の呼び名を付けてよかった。
担当編集:それから、敵の女幹部がセカイの前に登場するところですね。
──武装解除じゃないけど、やっぱり脱がす所ですか(笑)。
担当編集:セカイが調子よくおだてて、女幹部に服を脱いでもらうところが落語みたいになってるのが、光永さんさすがだな!って(笑)。
フューリィの冷たい目つきとか、馬鹿げたポーズを取る辺りも最高に良い! 途中からソムリエみたいなおじさんが出てくるところも面白いし、コックさんやセカイ君が軽く股間押さえてるところも笑える。なんていうか……この、バカしか出てこない会話が、最高……。
(一同爆笑)
光永:読者が喜ぶから「もっとやれ、もっと脱がせ」ってエスカレートしていくのが恐ろしいところですよ。どこまでエロを描いていいのか、バランスが難しいですね。
©︎光永康則/講談社