2021.10.27
【インタビュー】『しあわせ鳥見んぐ』わらびもちきなこ「”知る”ことで世界が広がる喜びを伝えたい」
バードウォッチング専門誌『BIRDER』でも特集が組まれるなど、漫画好きだけでなくバードウォッチャーからも注目を集めている『しあわせ鳥見んぐ』。
主人公の芸大生・宮内すずは、野鳥観察を趣味にする時庭翼に出会い、自分も鳥見(バードウォッチング)を始めてみることに。バードウォッチングの楽しさはもちろん、鳥を観察する上でのマナー、鳥と人間の共生についても誠実に描いた作品です。
10月27日の単行本1巻発売を記念して、作者のわらびもちきなこ先生と、本作が連載されている『まんがタイムきらら』の担当編集さんにお話を伺いました。
定期購読していた『BIRDER』とまさかのコラボ
──本日はお忙しい中ありがとうございます。この取材を申し込んだ時点では『BIRDER』でもインタビューを受けられていたことを知らなかったので、告知を見たときびっくりしました。
わらびもちきなこ先生(以下、きなこ):私も事前にまったく知らされていなくて、担当さんから突然「コラボ決まったよ!」と言われてびっくりしました(笑)。『BIRDER』は、この漫画を描き始めたころから資料も兼ねて定期購読していた雑誌だったので。
ただ、『BIRDER』のインタビューでは現実のバードウォッチングに関連した話が多かったので、今日はまた違ったお話もできるかなと思っています。
──インタビューだけでなく、雑誌の表紙も描かれたり、先生も記事を寄稿されたりとかなり大がかりなコラボ企画でしたが、どういった経緯で実現したんでしょうか。
担当編集:『しあわせ鳥見んぐ』はきららでも今イチオシの作品なので、単行本の発売にあわせてこれまでにない施策がしたいなと考えていました。そんなとき、私も作品資料として読んでいた『BIRDER』に、たまたま『秋山さんのとりライフ』というバードウォッチング漫画のインタビュー記事が載っていたんです。
それで、「ウチにも『しあわせ鳥見んぐ』って漫画があるんですけれども……」と恐る恐るオファーをしてみたら興味を持っていただけて。打ち合わせを重ねるうちにどんどん話が膨らんでいき、最終的に表紙も描かせてもらうことになりました。
──バードウォッチングの漫画を描こうと思ったのはどうしてですか?
きなこ:前作『佐藤さんはPJK』の終了が決まって次回作の構想を練っていたのが、ちょうど私がバードウォッチングを始めたころだったんです。この楽しさを漫画にしたら面白そうだなと思ったのが最初のきっかけですね。
──『佐藤さんはPJK』はハイテンションなギャグ4コマでしたが、今作はストーリー重視で落ち着いた雰囲気だなと感じます。
きなこ:実は、前の担当さんからも「次はギャグじゃない方向にしてみては」と言われていました。理由はちゃんと聞いてないんですけど、前作の反応とか私の絵柄とかを見て、ギャグ以外の可能性を試そうとしてくださったのかもしれません。
──前の担当さんからそう言われたときの気持ちはいかがでしたか?
きなこ:『PJK』は私が初めてまともに描いた漫画だったので、ギャグを封印されたら何を描けばいいんだ……って正直なところ思いました(笑)。
なので、何か主軸になるようなテーマがほしいなと思って。そこで自分がちょうどはまっていたバードウォッチングに白羽の矢が立った感じです。
──前の担当さんからの助言と、バードウォッチングという題材がうまくマッチしたんですね。バードウォッチングを始めたきっかけは何だったんでしょうか。
きなこ:数年前に山形に引っ越しをして、せっかく自然豊かな場所に来たのだからアウトドアな趣味を始めたいと思いました。最初は山登りに挑戦してみたものの、もともとインドア体質なので長続きしなかったです。
そんなとき、市の広報で探鳥会というイベントがあることを知り、鳥を見るくらいなら自分にもできるかなと軽い気持ちで参加してみたら、バードウォッチングの魅力に取りつかれてしまいました。
──『しあわせ鳥見んぐ』の舞台が山形なのも、先生が山形在住だからなんですね。
きなこ:はい。山形には飛島というバードウォッチャーの聖地と呼ばれている場所もありますし、作中に出てきた宮城の伊豆沼にも車でアクセスしやすいから、漫画の舞台としても悪くないかなと。
「鳥見をする人」と「鳥の姿を切り取る」をかけたタイトル
──きらら作品には女子高生のキャラクターが多いと思いますが、本作ですずたちを大学生にしたのはなぜですか?
きなこ:バードウォッチングを取り扱うにしても、鳥を見る──インプットするだけじゃなく、絵を描いたり写真を撮ったりというアウトプットの要素を入れたかったんです。そうなると、高校生よりも大学生、それも専門的に学んでいる芸大生のほうが説得力があるかなって。
あと、単純に大学生のほうが時間の面でもお金の面でも自由度が高いから、漫画を描くにあたって動かしやすそうというのも理由のひとつです。
──伊豆沼の回も、顧問の先生に引率されてではなく、自分たちで車を運転して現地まで行っていたのが大学生っぽかったです。
きなこ:実は最初、すずは社会人設定だったのですが、他のキャラと予定を合わせやすくするためにみんな大学生になりました。翼より1歳年上で成人しているのはその名残ですね。
──バードウォッチングを題材にしているのに、すずたちがよく焼き鳥を食べているのが個人的に気になっているのですが……。
きなこ:鳥が好きだからといって鳥を食べないわけじゃないよね、みたいなギャップが逆に面白いかなあ、と……。すみません、そんなに深い意味はありません(笑)。
──『しあわせ鳥見んぐ』以外にどんなタイトル案がありましたか?
きなこ:『鳥見びより』に、『アーバンバーダー』に、『ハッピーバードデー』……。とりあえず、バードウォッチングの漫画だと一目でわかるようなタイトルにしたいと思っていました。
今のタイトルも最初は『鳥見んぐ』だけだったんですけど、「しあわせ」をつけることで柔らかい雰囲気になったかなと。ストーリーの根本に、童話の「幸せの青い鳥」を意識している部分がありますし。
──野暮な質問ですが、「鳥見」と「トリミング」をかけているということでいいんでしょうか。
きなこ:はい。バードウォッチングの俗称としての「鳥見」に「ing(~をすること)」をつけて「鳥見んぐ」と、絵や写真で鳥の姿を切り取るという意味での「トリミング」をかけています。
担当編集:きなこ先生、そういう言葉選びがすごく上手ですよね。作中にもよくダジャレが出てきますし。
きなこ:1話に最低1回は鳥に絡めたダジャレを入れないと落ち着かないというか……。ギャグは控えめにと言われてたはずなんですけど、やっぱり『PJK』のノリが抜けていないのかも(笑)。
担当編集:第7話の「クロウさせやがって」というセリフ。「苦労」とカラスの「クロウ(Crow)」がかかっているのに最初気づかなくて、意味がわかったとき感動しました。
きなこ:ネームを出したとき「なんでここカタカナなんですか?」って聞かれて、自分で自分のギャグを説明するのが恥ずかしかったです……。
©わらびもちきなこ/芳文社
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